約 1,012,679 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2326.html
夕焼けに空が染まる頃、ウエストウッド村の台所から小さな鼻歌が聞こえてきた。 「~♪」 声の主はティファニア、彼女は久しぶりにマチルダが帰ってきてるので、とても機嫌が良かった。 家族の命を奪われてから、ずっと面倒を見てくれていたマチルダは、年に何度も仕送りを送ってくれていた。 自分の家族は皆失ってしまったけど、サウスゴータの太守だったマチルダの一族が、家族代わりになって自分を助けてくれている。 それは返しきれないほどの恩だった。 以前に一度、自分と母親のせいでマチルダの一族にまで迷惑がかかってしまった……と謝ったことがある、しかし、マチルダはそれを怒った。 間違っているのは王の方だ、と言って、決して自分を蔑んではいけないと、何度もティファニアに言い聞かせた。 小さい頃から姉のように慕っていたマチルダが、そのとき本当の姉になった気がしたのは、けっして気のせいではないだろう。 火箸で釜戸の灰を軽くかき分けると、昼に使った薪(たきぎ)の、炭化したものがちょこんと姿を見せた。 それを種火として利用し、よく乾いた小枝に火を移し、薪を燃やし…手慣れた様子でお湯を沸かしていく。 「夕食の分か。薪は足りているかい?」 ティファニアが振り向くと、そこにはワルドが立っていた。 どこか気遣うように釜戸の様子を見ている。 「ええ、大丈夫ですよ。ワルドさんのおかげです。薪割りもあんなに沢山やってもらって、本当に助かります」 「世話になっているんだ、これぐらい当然だよ」 ワルドが笑みを返すと、踵を返して台所を出て行った、ティファニアほほえんだままそれを見送る。 ティファニアは家族と、珍しいお客さんのために、美味しい料理を作るべくよし!と気合いを入れた。 「………」 台所を出たワルドは、夕方の見回りをしに外へと出た。 空を見上げて竜騎兵がいないことを確認する、年には念を入れ、木々の影を縫うように素早く、音もなく森の中へと移動していった。 風系統のスクエアたるワルドは、風の流れに敏感で、気配を消すことも感じ取ることも得意としている。 更に、ウエストウッド村に滞在している間、『土くれのフーケ』として盗みを働いていたマチルダから、山や森の知恵をいくつか教わっている。 マチルダは時々、暇つぶしの雑談に混じって、猟師が如何に気配を消して獲物に近づくのだとか、獣の踏みしめた地面の見分け方を語る。 それらの知恵は、王族の親衛隊を勤める魔法衛士隊ではほとんど発揮される事は無かった、そういった索敵の技術は基本的に使い魔が有しているものであるからだ。 メイジがそれを行うのは、花形部隊では忌諱されがちですらあったが、大いに参考になる知恵であり、戦いを有利に進めるため学ぶものも少なくはない。 その一人がワルドだった、母を失い、トリステインの内情を知るにつれて歪んでいったワルドは、裏切りを正当化するための材料として己のプライドを肥大させた。 泥臭い猟師の知恵など下賎なものだと思いつつも、それを習得して数多くの任務を成功させ、それでいて自分は崇高な理想を持ってトリステインを裏切り、いやむしろトリステインを「見限ってやった」とすら考えていた。 それを打ち砕いてくれたのがルイズだった。 ルイズは、己の能力をよく理解し、それを有効活用する術をしっかりと考えている。 虚無の系統とか、公爵の血筋だとかそんなものではなく、ルイズは己の今と、これからの生き方によどみない自信を持っていると思えた。 だからこそ、ワルドは自分が矮小だと気づき、ルイズに忠誠を誓った。 そして今、このウエストウッドという小さな村で、子供達の相手をする時間が、とても安らかなものだと思えていた。 以前なら平民の子供や、落ちぶれた貴族の子供には、作り笑顔で接していたことだろう、しかし今は違う。 マチルダ、ティファニア、ルイズが子供の相手をしているのを見ると、なぜだろうか、とても安らぐ…… 「…?」 ふと、周囲を警戒していたワルドに、何か人の気配のようなものを感じた。 手入れのされていない森は、獣道でもない限り歩いて通ることはできない、背の高い草で木々の隙間が埋められてしまう。 その草の向こうから、ガサガサ、という葉擦れの音が聞こえてきた。 「……」 血が冷めていく。 ワルドは短剣状の杖を手に持ち、腰を低くして木の陰に隠れた。 ガサガサ、ガサガサと近づいてくるその音だけでなく、周囲360度を警戒する。 敵か、動物か、第三者か、陽動か、疎開か、迷い子か、斥候か…… 考えを巡らせていくうちに、その音は間近まで迫ってくる。 ザッ、とかき分けられた草の向こうから姿を現したのは、全裸で、しかも胸と腹に陥没した痕の残るルイズの姿だった。 「!」 驚いて目を見開いたワルドは、そっとルイズに見えるよう顔を出した、左手で口を覆う仕草で『誰かに聞かれていないか?』という意図を伝える。 ルイズはさして驚きもせず、ワルドの仕草を見て口を開いた。 「大丈夫、追われてはいないわ…」 「どうしたんだ、大丈夫なのか?その怪我は?」 ワルドは『レビテーション』で身体を浮かせると、すぐにルイズに近寄り抱き上げた、右膝を曲げてそこにルイズを座らせ、足跡をつけぬようゆっくりと森の中を移動していく。 「ちょっと…手強いやつがいたのよ、けっこう、だめね、疲れたわ」 「血は必要か?」 「いい…」 ルイズの返事はどこか弱々しかった。 ワルドは、ティファニアや子供達に気づかれぬように注意しつつ、マチルダの部屋へとルイズを運んだ。 自室で裁縫をしていたマチルダが、ルイズの姿に驚いたのは言うまでもない。 「何があったのさ…あんたがそんな怪我を負うなんて」 「火のメイジよ、トライアングルか、それ以上よ。とんでもない熱だったわ…焦げるなんてもんじゃない、胸の肉が一瞬で炭になったもの」 「とんでもないね。ところで、そいつらは?」 「ダメージが大きすぎて、殺せなかった…詠唱する暇がないぐらい正確に火が飛んでくるのよ、記憶を消すのがやっとだったわ」 マチルダはルイズをベッドに寝かせようとするが、ルイズはその手を払った。 「すぐに行かなきゃ、あいつら、トリステインに向かってる」 「え?」 そのとき、がちゃりと扉が開かれワルドが入ってきた。 ワルドはデルフリンガーを、ルイズの座るベッド脇に立てかける。 「食事が出来たそうだ…食べる余裕は、あるか?」 「ごめんなさい、食事の時間も惜しいわ…ティファニアには悪いけど。ワルドよく聞いて、トリステイン魔法学院が狙われてるわ、とても強力な火のメイジの、傭兵達によ」 「!」 とたんにワルドの表情が険しくなった、思い当たるものがあるのか、ワルドは跪いてルイズに顔を近づけ、声を荒げぬよう気をつけて問いかけた。 「それは、この間デルフリンガーが言っていた奴か? 長距離から気配を探られたとか言う…」 「ええ」 頷くルイズに、マチルダがはっとした表情になった。 「まさか、白炎のメンヌヴィルじゃないだろうね」 ワルドもまた何かに気がついたように目を見開き、ルイズに問いかけた。 「…ルイズ、そいつは盲目では無かったか」 「顔に大きな火傷の痕があったわ。目じゃなくて…熱を感じてるみたい、そのせいで苦戦したのよ」 マチルダとワルドが顔を見合わせた。 「間違いないね、そいつがメンヌヴィルさ。とんでもない火の使い手だよ」 「メンヌヴィル?」 「とにかく、人でも亜人でも、焼いていたぶるのが好きなキチガイだって聞いたね、そんな奴に狙われるなんて…」 腕を組み、眉間に皺を寄せ考え込むマチルダだったが、ふと何かを思いついたのか顔を上げる。 「陽動ってことは無いのかい?この孤児院が狙われる可能性は?臭いや魔法で追跡されるとか…とにかく、一度調べるよ」 そう質問しながらマチルダがディティクトマジックを唱え、ルイズの身体を調査する。 ルイズの身体には何も仕掛けられている様子は無かった。 「尾行の可能性はごく低いわ。十分注意してた。森の中を移動する途中、何度か動きを止めて周囲の音を観察したの。 蟻の足音も、鳥の羽音も、地下の音も疑ったけど、それらしい音は感じられなかった」 「そう…それだけ注意してれば何とか大丈夫だと思うけど。魔法学院の件はどうするのさ」 沈黙が流れる。 時間にして数秒のことだったが、答えを決めかねているルイズにとって、それは一分よりも長く感じた。 「どちらにせよ、すぐ報告せねばならないだろう。 今の時期、アルビオンはラ・ロシェールを離れ、ガリア寄りになる。…遍在を繋ぎの取れる場所に飛ばすのは無理だ。僕が直接飛んでいこう」 ワルドの言葉に、ルイズ瞳が揺れた。 「……私も、私も行くわ」 ルイズの言葉に、ロングビルが血相を変えて叫ぶ。 「正気かい!? 言ったろう、シエスタって嬢ちゃんは吸血鬼殺しの英才教育を受けてるんだよ!」 「魔法学院に乗り込むつもりは無いわよ、可能ならメンヌヴィルって奴を迎え撃つ…もしくは、奴らの奇襲を奇襲してやるわ」 「あんた…! ああ、いくらなんでも、そこまで魔法学院に義理はないだろう?いくら王宮と繋がってるとはいえ、タダじゃ済まないかもしれないんだよ」 「義理なんて無いわよ。私はただ、あいつらの思い通りにさせたくないだけよ」 キッ、とマチルダを睨む。 その視線は極めて鋭いものだったが、恐怖は感じなかった、怒りではなく純粋な決意がそこに秘められており、マチルダはルイズの言葉に納得するしか無かった。 「マチルダ、悪いがティファニアに説明しておいてくれ。急用が出来たとな」 「わかったよ」 マチルダが部屋を出るのを見ると、ワルドはポケットからアルビオンの地図を取り出した、それは四つに畳まれた羊皮紙であり、広げると幅三十サント四方になる。 焼き付けられているのは地図と、ハルケギニアとアルビオンの周回図だった。 「ルイズ、場所と時間を教えてくれ」 ルイズはここ数日の間に知り得たことを、簡潔に述べた。 メンヌヴィルと接触した場所、時間、ウエストウッドへと移動した経路など… 馬車で移動した時に見た街道の風景や、町中の様子から、アルビオンの民が過酷な環境に置かれていると言うこともハッキリした。 できればクロムウェルを暗殺したかったが、それは『可能ならば』という但し書きがつくので、重要度はそれほど高くない。 ルイズも、またトリステインで待っているウェールズ達もそれが可能だとは思っていないはずだ。 話をしながらもルイズは、目立ちにくいくすみとムラのあるオリーブ色に染められた服に身を包む。 飾り気のないシャツ、足首を縛れるズボン、フード付きのマント、そして…デルフリンガーに手をかけようとしたところで、ルイズの動きが一瞬止まった。 ルイズはデルフリンガーの柄に手を触れず鞘を掴んだ、それはデルフリンガーに触れるのを恐れているようにも感じられた。 コツコツ、とドアがノックされる。 ワルドは地図を懐にしまい込みつつ、「どうぞ」と呟いた。 「お食事、食べていかれないんですか?」 扉を開いたのはティファニアだった、心配そうな表情をしていると、一目で分かる。 「ごめんね、せっかく準備してくれたのに…」 「いえ、いいんです。あ、でもパンがありますから、お弁当代わりに持って行ってください」 「ああ、そうか…ありが」「ごめんなさい、急ぐから食べていられないの、道中食べる暇も無いし…」 ワルドが、パンの入った小さな包みを受け取ろうとした時、ルイズがそれを遮った。 「そうでしたか…ごめんなさい」 「いいのよ。私たちが無駄にするより、みんなで食べた方がいいでしょう? ワルド、そろそろ行くわよ」 「ああ」 ワルドとルイズが、ティファニアの横を通り過ぎる。 「あ…」 その時、ティファニアはルイズの横顔を見て、記憶の中にある在りし日の母と重なった気がした。 兵士が屋敷に殺到したとき、生き残ることは不可能だと思いながらも、生き残るために毅然とした態度を崩さなかった母に。 「マチルダ姉さん…」 ティファニアは寂しげな瞳で、マチルダの顔を見上げた。 「なんだい?」 「二人とも、大丈夫、かな。何か危険なことをしに行くんでしょう?」 「心配しなくても大丈夫さ、あの二人なら大丈夫だよ」 「でも……石仮面さん、何か辛そうな気がする」 マチルダは顔を上げ、ルイズの後ろ姿を見送った。 一抹の不安があったが、それは口に出さず心の中だけで処理をした。 それから半日ほど後、すでに太陽は姿を隠し、二つの月が空高く上がっている。 ルイズとワルドの二人は森を越え、街道を越え、首都ロンディニウムとは逆方向になる川へと出ていた。 「ワルド。悪いけど強行軍になるわよ。川から流れ落ちる水に紛れるよう『イリュージョン』を使うわ。そこから雲を突き抜ければ、今の時期はガリア寄りの海上に出るわね」 「僕はそこから『フライ』を使って、トリステインまで飛べばいいのだな?」 「ただし高度は私の言うとおりに維持して貰うわ……哨戒に出ている竜騎兵に見つかる可能性もあるし」 「わかった、君の目を信用している」 二人は小声で会話をしながら、川沿いの道から獣道へと入り、岩場を歩いていく。 早ければ朝日を迎える前に、川の終点にたどり着けるだろう。 「パン、食べたかったな」 川沿いの岩場を歩いていたルイズが、不意に呟いた。 「今更どうしたんだ、貰ってくれば良かったじゃないか」 「歩きながらでも食べたかったわよ、でも、気を利かせてたっぷりバターを入れてくれたんでしょうね、臭いがしたわ」 「バターの香りが?」 「そうよ、あの臭いじゃ目立って大変だわ。私にだって50メイル離れていても分かる臭いだもの」 「なるほどな…そうか、臭いか。すまない、そんなことにも気がつかないなんて、僕も気が緩んでいたかな」 「攻める訳じゃないわ。それに、逆に考えるのよ、子供達に囲まれて良い休暇だったでしょう?」 「ふふ、まあな。生意気な奴がいたが、木の実を拾うときなんか、年下を庇ってよく動いていたよ」 どこか清々しいはにかみを見せて、ワルドが呟く。 ティファニアを母として、姉として慕う孤児院の子供達は、ティファニアのお陰かマチルダのおかげか、家族を守るという意識が小さいながらも根付いている。 「皆、血は繋がらなくとも兄弟のようだ……領民は皆我が子であると、先々代の王は言っていたそうだが、その通りかもしれん。新しい世代が育つのを見届けるのは、いいものかもな」 魔法を行使する貴族の、魔法によって領地を守るという観念の元になった、慈愛と勇気の意識。 それこそがティファニアの持つ精神であり、皆その影響を受けて育っている、そうワルドは感じていた。 ぴたりと、ルイズが足を止めた。 「…子供」 不思議に思ったワルドが、ルイズの顔を覗き込もうとするが、ルイズはミシリと音が立つほどに拳を握りしめて、ワルドに顔を見られぬよう早足で歩き出した。 「ルイズ?」 「なんでもないわ、急ぎましょう」 気を抜くと、歩くのを止めてしまいそうになる。 まるで体中を鎖でがんじがらめにされたような、過度の閉塞感を感じていた。 ルイズは、なぜ自分から『子供』という単語を使ってしまったのかと、ひどく後悔している。 ウエストウッド村の子供達は、皆素直で、小さくてもティファニアを守ろうという意識があって、とても眩しい。 そう、ルイズは子供達を見て、元気を分けて貰っている。 昨日、街道脇の森で、たまたま見つけた親子もそうだった。 自分のことを心配してくれた上、死体をケモノに食い荒らされぬよう、土に埋めようとしてくれた。 それなのに自分はその親子を『食った』。 ウエストウッドの子供達は、とても可愛いと思える。 しかしあの親子もまた、とても美味しかった。 子供を可愛いと思えるのも美味しそうだと思えるのも、どちらも偽りのない自分の意識。 石仮面を被り、吸血鬼となったときは、人間は餌に過ぎないと思っていた、合法的に殺人と吸血ができる傭兵を選んだのは、ただの気まぐれに過ぎなかったはずだ。 しかし今は、そんな自分が恐ろしい。 ふと…何かの拍子で、それこそ枯れ葉が風に舞うような、ごくごく小さな何かがきっかけで、ウエストウッドの子供達を『美味しそうだ』と思えてしまうのではないだろうか。 そうなってしまったら、次は? 『美味しかった』となってしまったら……… ルイズは、鎖で縛り付けられた体が、ゆっくりと海の底へと沈んでいく気がした。 震えそうな手を、力を込めて必死で押さえ、カチカチと鳴りそうな歯を、食いしばって必死に耐える。 そこでふと気がついた。 デルフリンガーは心が読める。 『だから自分は、デルフリンガーを恐れていたのか』と。 デルフリンガーを握れば、自分のしでかしたことすべてを見透かされてしまうかもしれない。 永遠に近い寿命を、共に過ごしてくれるかもしれないデルフリンガーに、嫌われてしまうかもしれない。 もし、ワルドにも嫌われたら? もし、マチルダにも嫌われたら? もし、ティファニアにも嫌われたら? もし、アンリエッタにも、ウェールズにも、姉様にも… ルイズの後ろを歩くワルドの目に、力強く映るルイズの足取り。 その芯は今にも崩れそうなほど危うかった。 To Be Continued→ 67< 目次 69
https://w.atwiki.jp/pixivzombie/pages/49.html
キャラクター詳細 名前: ルイズ・マッケンジー 性別: 男 年齢(享年): 不明 自我の有無: 不明 ゾンビになった経緯: 明日のライヴのために自慢の長髪を整えようとモールの美容院に行く途中、突如現れた鼠に噛まれゾンビウィルスに一発感染してしまった。彼は気付かぬうちにゾンビへと変わり果てた・・・・。 特徴: ピクシブタウンのデスメタルバンド「カコリッチズ」のギターを担当している青年。生前はデスメタルを愛してやまないファンキーな青年だった。喧嘩が強く鍛えぬかれた肉体が自慢だった。ゾンビになってもその力はより強力に引き継がれている。ちなみに身長は2m30cm。 戦闘法: 近距離打撃など。 攻略法: とにかく頑丈な肉体をもち豪腕。接近戦は訓練された人間でないと戦うには辛いものがある。また大股で歩くので思った以上に移動速度が速い。いつの間にか間合いをつめられるかも。そこまで強力なゾンビではないが2mを超える身長は圧倒される。逃げながら落ち着いて遠距離武器で戦おう。弱点は頭。 メッセージ: カコリッチズをよろしく!byルイズ 関連群像劇 カコリッチズ(CACOLICHS)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2863.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ ゴーレムの右腕から音を立てて火矢が飛び出す。 ねらいはシルフィード。それに、その背中に乗っているタバサ、キュルケ、ルイズ、ユーノの4人。 「少し右」 きゅい。 シルフィードは体を少し傾けて、火矢がうまく追ってこられるように進路を変えてやった。 「ねえ、タバサ。この方法、やっぱり無理があるわよ」 キュルケは風にばたつく髪を押さえている。 「大丈夫」 「でもね、あの火矢をおびき寄せてゴーレムに当てるなんて無理がありすぎるわ。フレイム・ボールも敵を追いかけるけど、使ったメイジに当てるなんてできないのよ」 「フレイム・ボールとは違う」 タバサは横目で火矢が地面をえぐった後を見る。 「追いかけるという性能では、火矢はフレイム・ボールよりずっと下。だからできる」 「それはよくても……タバサ!後ろ後ろ!」 キュルケの後ろには呪文を唱えるルイズ──ではなく、リリカルイズ──と彼女が落ちないように支えているユーノがいる。 さらにシルフィードの尻尾の向こうでは火矢が急速に距離を詰めつつある。 「あなたのシルフィードの方が遅いのよ!追いつかれる!」 「大丈夫」 タバサは小さく呪文を唱え体をねじりながら杖を後ろに降る。 空気に空気をたたきつけるエアハンマー特有の音がキュルケの耳を打つ。 きゅいっ。きゅきゅいっ。 音と同時にシルフィードは急加速。 青い風になったシルフィードは火矢との距離が開げた。 「ねえ、さっきのエアハンマー。何に使ったの?」 タバサは答えない。 ただ、そのときのシルフィードは涙目になっているようにキュルケには見えた。 「あなたも大変ね」 きゅい。 今度は風竜の瞳がきらりと光る。 キュルケはシルフィードが訴えかける目をしているような気がした。 暴走するジュエルシードはさらなる魔力を放出する。 それはゴーレムにさらなる力を与え、変異を促した。 さらに数発の砲撃の後にゴーレムは動きを止める。 キュルケがいぶかしんで見下ろすとゴーレムの胴体がぼろぼろと崩れ出した。 「あら、終わり?」 そうではない。 崩れたのはゴーレムの表面だけ。 その下からはハリネズミのの針ように胴体を埋め尽くす無数の砲身が姿を現す。 「ちょっと!何よ、あれ!」 「ちょうどいい」 あわてるキュルケとは反対にタバサはいつもと変わらない。 シルフィードに命じて少し降下し、羽を左右に振らせる。 「挑発してどうするのよ!」 「まだ火矢が足りない」 「ええっ!?」 ゴーレムの視線が上を向き、砲身のついた腕を上げる。 「嘘……でしょ?」 キュルケの顔が引きつった。 ルイズはキュルケとは別のことを考えていた。 ゴーレムの右腕は自分たちに向いている。 でも胴体にある無数の砲身は全てがルイズたちを狙っているわけではない。 いくつもの砲身が品評会会場を向いている。 ──あそこには姫さまが ルイズは叫ぶ。 「ユーノ!急いで!姫さまを守って!」 ユーノが口を開こうとする。 何を言いたいかはだいたいわかる。ルイズはそれを視線で押さえた。 ユーノにはそれで通じた。 「わかった。アンリエッタ王女はきっと守るよ」 ユーノはシルフィードの背中からふわりと離れる。 「キュルケさん。お願いします」 「え?ちょっと、待ちなさいよ!」 あわててキュルケはユーノに変わってルイズを支えた。 ユーノは会場に向けて飛ぶ。 その下でゴーレムが不気味な音をあげていた。 ゴーレムが爆発した。 実際には全ての砲身より無数の火矢が同時に放たれたのだが、火を噴き轟音を上げる様はそうとしか見えない。 発射音は遙か遠くまで響く。学院の塔はふるえ、ガラスも割れて崩れ落ちる。 火矢の多くはシルフィードに殺到し、あるものは全く別の方向に飛ぶ。 その内、品評会会場に飛んだ火矢の数は決して少なくはなかった。 空を飛ぶユーノの下を火矢が次々に追い越していく。 会場まではもう、あと少しもない。 この後に来る惨劇を予想してユーノの顔が曇る。 「相棒。俺だ。俺を抜け。ちったぁ助けになるはずだ」 叫ぶ背中のデルフリンガーに手をかける。 鞘から刀身が抜けきった時に視界が変わった。 ロケット弾がゆっくり飛んでいる。 ユーノにはそう見えた。 なら簡単に追い越せる。 「どうするんだ?相棒」 「全部止めるよ!」 デルフリンガーの切っ先にシールドを展開。 ロケット弾の前に立ち、受け止める。直後に爆発。 その圧力を利用して方向を変えた。 「こんどは、あれ!」 次に前に出ているロケット弾の前に飛ぶ。 普段ならできるはずのない判断が瞬時にできる。 ユーノはそれに従い、空を舞い踊る。 ロケット弾が一つ一つ、順番に爆発の中に消えていった。 ゴーレムが出現してからアンリエッタが下した命令はただ一つだけだった。 「皆さんを安全なところに!」 その一言で彼女の近衛隊は動いてくれた。 空に起こる爆発にも動じないのは日頃の訓練のせいだろうか。 だが、そんな訓練をしていないアンリエッタもここから逃げ出す気にはなれなかった。 この国の王女としてだけではない。 空で戦う白い服の少女。 その桃色のブロンドを見てアンリエッタは確信した。 「ルイズ……」 ルイズがあそこで学院の守るために戦っている。 なら自分がなぜここから逃げられるのか。 そのアンリエッタに火矢──アンリエッタはロケット弾という言葉を知らない──が迫る。 アンリエッタは恐怖した。 火矢の威力は先に爆発した地面でわかる。 走ってもフライでも逃げられる速さではない。 その場で立ちつくし動けなくなる。 目を見開くアンリエッタの前に、空から落ちてくるような速さで誰かが降り立った。 背丈より長い剣を手にした少年のメイジだ。 少年は魔法陣を先に灯した剣を火矢に向ける。 「あ……」 止める暇もない。 火矢は魔法陣にぶつかり爆発する。 にもかかわらず爆風も熱風も魔方陣に阻まれアンリエッタを襲うことはなかった。 「早く逃げてください。アンリエッタ王女!」 少年の強い言葉にアンリエッタは背を押される。 「わかりました。ご武運を」 会場の生徒はほとんど避難している。 アンリエッタは近衛の騎士に手を引かれ、生徒たちを追った。 「チェーンバインド!」 振り返ると地面に描かれた魔法陣から、しなやかに舞い踊る光の鎖が火矢の行く手を遮った。 光の鎖は火矢をその踊りの中へと引き込む。 囚われの火矢はその中で、引き絞られ、くびれ、自らを火炎と変えていった。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2304.html
「あはは」 ”何が起こったのか分からない” 男三人と女一人はそんな顔でルイズを見ていた。 それがたまらなく可笑しくて、ルイズは背をのけぞらし、声を出して笑った。 「あはははははっ!」 「こ、こいつ!」 笑い続けるルイズに飛びかかったのは、ルイズに殴られた男だった。 男には傭兵と盗賊の経験があった、腹や胸を突き刺したからといって人間が即死しないのも知っている。 刺された人間は時間をおいて動きが鈍くなり、痛みではなく重みと熱を感じて死んでいくはずだ、死にものぐるいで反撃を受ける前に、取り押さえて確実に殺してやると思い、男はルイズに飛びかかった。 どすん!と音を立てて二人がベッドに倒れ込む、男はルイズの上に馬乗りになり、胸からナイフを引きずり出そうとして柄を握った。 ナイフを振り上げようとしたその時、男の体は不自然に、まるで凍ってしまったかのように動きを止めた。 「な、あえ? 体が、うごかねえ。お、おい、どうなってるんだ、体が動かねえよ」 男が首を後ろに向けると、バキンと音がして視点が下がった。 ごとん、という衝撃とともに頭が床に落ちる、ごろりと転がった首は二人の男と、一人の女を視界に納めていた。 「………」 首だけになった男の口が、声もなく何かを呟くと、頭の上に氷のような冷たくて堅いものが降り注ぐ。 そして視界は急激にぼやけ、瞳孔が開き、凍り付いてバラバラに砕かれた肉体に埋め尽くされ、男は絶命した。 「あ」 最初に声を出したのは女だった。 「え」 あまりのことに思考が止まり、気の抜けた声を出したのは長身の男。 「う、うわぁあああああああっ!」 逃げようとしたのは、一番力強そうな筋肉の男だった。 バン!と音を立ててルイズがベッドから飛び起き、部屋の入り口から逃げようとする男に向かって右腕を伸ばしす。 その手首からは、銀色にも見える艶やかな黒髪が伸びたかと思うと、鍛えられた鋼剣の如く収束し、男の首に巻き付いた。 ルイズは有り余る筋力で無造作に腕を引く、すると、ビチリという繊維が引きちぎれる音と、バキバキと首の骨が砕かれる音が盛大に響く。 首と胴の離れた長身の男は、そのまま仰向けの形で床に倒れ込むと、すっくと立ち上がり首の無いまま逃げだそうとして壁にぶつかり、再度床に倒れ込んだ。 首のない体は尚も逃げようと足をばたつかせたが、それもほんの数秒のことであった。 激しく動いていた足が動きを止めるのを、残された二人は呆然と眺めていた。 すかさず、二人の首にルイズの手が伸びた、細くしなやかなルイズの指が二人の首に絡みつき、左手で男を、右手で女を釣り上げた。 「えぐっ、ぐえ……」 男の首に少しずつ食い込む指には、とても力が入っているとは思えなかった、腐りかけの果物でも握りつぶすように男の首が細く絞られていく。 「ひぃっ!い、いや、助け」 女は涙目になりながら、命だけは助けてくれと懇願する、だがルイズは返事の代わりとしてにやりと笑い、声を出せなくなる程度の力で女の首を絞めた。 「黙って? これみたいになりたいの?」 ”これ”扱いされた男は目を血走らせ、口を限界まで開き舌を飛び出させていた、首はもう呼吸が不可能なほどに絞められている。 興奮のあまり、元の長さ、元の色に戻った髪の毛が、男の顔を絞首台のマスクのように覆っていく。 それを見ていた女は、涙目になりながらも本能的に歯を食いしばり、必死に首を縮こまらせた。 ぐるん ぐるん ぶちっ 棒に巻き付けた布を解くように髪の毛を引く、首は容易くねじ切られてごとりと女の足下に転がった。 ルイズは髪の毛を女の首と口元にまき付け、声を封じると、首のねじ切られた男を持ち上げて、首からぶしゅ、ぶしゅと噴き出す血を頭から浴びた。 「カハァ……」 血を浴びて艶やかな輝きを放つ髪の毛、水滴が滑るような玉の肌、ランプの明かりのせいか黄金色に輝く瞳、そして可愛らしい口には不釣り合いな鋭く尖った犬歯。 頭から浴びた大量の血は、体の表面から吸収されていくため、床にはほとんどこぼれ落ちない。 足りない。 もっと、もっと欲しい! 「う、あ」 ルイズの髪の毛による拘束が突然緩み、持ち上げられていた女が床に尻餅をついた。 目の前ではルイズが男の首へと噛みつき、スポンジから水を吸うが如く、肉に染みこんだ体液を必死でむさぼっている。 じゅるる、ぶじゅっ、ごくり、ずずずっ、ずぎゅっ。 男の体は瞬く間に体液を失い、やせ細り、乾き、床へと落ちた。 女はそれをただ呆然と見ていた、いつの間にか失禁し、床に広がる血だまりに小便が混ざっている。 女は、死にたくない!と願った。しかし死以外の結末が思い浮かばない。 女は、逃げるべきだ!と思った。しかし逃げられるとは思えない。 女は、早く死にたい!と思った。それを受け入れるしか道がないと納得してしまった。 ルイズは逃げようとした男の死体に手を伸ばすと、獣のように四つんばいになってその首に牙を突き立てた。 両手の指先と牙から血を吸い尽くす、体温の残る死体は数秒でミイラと化した。 「ああ…美味しい…」 床に膝をついたルイズが、まるで天を仰ぐように顔を上げ、呟く。 恍惚とした表情は、快楽の中にいることを示している。 全身に浴びた血が皮膚に肉に染みこむと、麻痺していた体に過剰な血液が行き渡る、神経は過敏になり、細胞の活性化が快楽として脳に伝わった。 飲み込んだ血は内臓へと行き渡り、体の内側を脈動させ、胃や腸、心臓や肺、そして子宮に快楽という電撃を走らせた。 未貫通の女性機能を包む筋肉はリズミカルに収縮と拡張を繰り返し、下腹部に熱を与え、血とは違う透明な液体を排出した。 「ねえ」 ルイズが女の方を向き、声をかける。 突然のことに驚いた女だったが、なんと返事して良いのか分からず、口をぱくぱくと動かすのみだった。 氷となって散乱した男の肉片を手で払いのけると、ルイズはベッドの上に座り、足を開いた。 「続けなさいよ」 「は、はい」 死体の転がる部屋で奉仕を強要されるという異常事態を、異常事態であると感じられるような正気は、女にも残っていなかった。 無表情でもなく、絶望的でもなく、ただ淡々と仕事をこなそうとする女を見て、ルイズはふふんと笑みを浮かべた。 指が肌に触れる度、軽い痺れのような快感が走る。 素肌と素肌が触れる度に、人間の体温を感じ、その温度がとても心地よくて思わずため息を漏らした。 「おう、ずいぶん静かになったな、どうした?」 突然階下から声がした。 ルイズは眉間に皺を寄せて女の頭を掴み、耳元に口を寄せる。 「今の声、なに?」 「み、見張りに立ってた男です」 「ふぅん……いいわね、呼びなさいよ」 「え、で、でも」 「”混ざりなよ”とでも言ってやりなさいよ、ね?」 女は驚いた顔をしたが、すぐに気を取り直すとベッドから折りて、階下に声をかけた。 「あんたも来なよ、みんなお休みしてるさ」 「本当か? へへへ、ずいぶんな好き者みたいじゃねえか」 何を勘違いしたのか深読みしたのか、見張りに立っていた男は嬉しそうな声を出して二階への階段を上り始めた。 「よく言えたわ…いい子ね……」 ルイズはそう呟いて、女を後ろから抱きしめた。 ずぶりと指先が沈み込む、右手は女の首へ、左手は心臓へ。 ギュルッ、ギュギュと音を立てて、勢いよく血を吸っていく、すると女の体温が急激に下がるのが感じられた。 女の背中に密着した、ルイズの胸や腹は、人間から体温を命を奪うその瞬間を感じていた。 それがどうしょうもないほどの愉悦で……ルイズは、二階に上がってくる男を捕まえると、更に「思いついたこと」を実践すべく、ナイフの如く硬質化した腕を振り上げた。 ………それから数十分後。 見張りに立っていた男は、生気の感じられないうつろな瞳で建物から出てくると、ロサイスに向けてゆっくりと歩き出した。 ……… ”それ”を見つけたのは偶然だった。 盲目の男は、神聖アルビオン帝国の皇帝から、トリステイン魔法学院を急襲し生徒を人質に取れと依頼された。 トリステインまでは隠密性に長けた特殊な船で移動するが、船はダータルネスではなくロサイスにあるというので、馬を用いてロサイスへの道を突き進んでいた。 「ん」 馬の背に乗った盲目の男が、かすかに鼻孔をくすぐる何かに気づいた。 傭兵団の先頭を歩いていたその男は、馬を急停止させると、風上を向いて鼻をひくつかせる。 「どうなさいました?」 すぐ後ろにいた部下の一人が、盲目の男に問いかける、だがすぐには返事も帰ってこない。 「におうな」 「は?」 「おまえたちはここで待て、俺は少し暇をつぶしてくる」 「隊長!?」 盲目の男は手綱を操って、街道から見える森に馬を走らせた。 「におう、におうぞ! 何だこの臭いは!まるで熔けるようだ!」 森の手前で馬を止めると、「フライ」の呪文を唱えて森の奥へと突き進んでいく。 その男は盲目のはずなのに、木々の位置が分かるようで、一度も木にぶつかることなく森の奥へと突き進んでいった。 後に残された部下たちは、待てと言われた以上追いかける訳にもいかず、森の側で立ちつくしていた。 ほんの20メイルほど森に入り込めば、振り返っても街道は見えなくなる。 所々に生えている草は人の背丈ほどもあり、木に絡みつくツタは森の雰囲気をより暗くしている。 地面は木の根が隆起してデコボコになり、気を抜くとすぐに転んでしまいそうな程だ。 そんな中を、臭いに向けて飛ぶ、今までに嗅いだことのない、腐臭と殺気の入り交じる臭いに向けて飛んでいく。 しばらく飛んだところに、人間とは思えない程低い体温があった。 人間の形をしておきながら、他よりも低い温度のそれは、こちらの姿を見て驚いているのか、頭に血を上らせるように温度を変化させていた。 それとともにぶつけられる殺気が、あまりにも心地よい。 盲目の男”白炎のメンヌヴィル”は、未知の存在を前にして笑みを零した。 ……… ルイズは約半日ぶりに外の空気を吸った。 足下には死体が転がっている、内側から引き裂かれたそれは、左肩から右脇腹にかけて無惨にも引き裂かれている。 ふと思う、サナギが蝶になる瞬間を、自分は体験したのではないか。 人間の体の中に潜り込み、人間を着る。それは母体の中で誕生を待つ赤子と言うより、ふ化を待つ卵のような、殻を捨てて羽ばたかんとする蝶のような気持ちだと思った。 「はあ……まぶしい…」 空を見上げると、澄み切った空から降り注ぐ太陽光が、眼球に突き刺さる。 手で光を遮りつつ、ルイズはだらしなく口を開き、まるで犬のように舌を出した。 陽光を遮る手は、血や腸液で汚れている、それを軽く振り払って自分の体を見ると、所々が人間の体液で汚れていた。 「いやだ、もう、洗わなきゃ」 体についた汚れを手で払うルイズ、その足下では、まっぷたつに引き裂かれた死体がうごめいていた。 「NNNNNNBAAAAAAAA……」 ずるり、ずるりと体を動かそうとする死体は、ルイズの血によって食屍鬼(グール)と化していた、腕を動かし、体を引きずって、どこにあるか分からない獲物を食らおうとしている。 ルイズはそれを見ても何も思わなかった、汚いとか、怖いだとか、愛おしいだとか、そんな感情を一つも抱かなかった。 ただ一つルイズの心に浮かんだのは、誰かとの約束。 「……だめよ、食屍鬼は作らない」 そう呟くとルイズは、右手を食屍鬼に向ける、右手の掌からズブズブと杖がせり出し、その感触を確かめ優しく握り込む。 何を焼くのか、何を破壊するのかを強くイメージする、食屍鬼に杖の先端を向けたままルイズは後ずさり、木の陰に隠れた。 「エクスプロージョン」 呟く。 その瞬間、食屍鬼を強烈な光が包み込んだ。 その光は、バッ!という破裂音を伴う強烈なものであり、反射光がルイズの肌を僅かに焼いている。 火傷を負った時のようにルイズの肌がずるりと剥け、髪の毛は溶けかかって半分以上が皮ごと地面に落ちた、ジュウジュウと音を立てて液状化し、風化していく皮膚を見下ろしながらも、ルイズの体は徐々に再生されていく。 食屍鬼を見ると、その体は八割近くが液状化しており、溶けた先から次第に風化してハイになっている。 燃やされて灰になるのではなく、溶けて灰になる異常な光景が、人間とは違う存在なのを暗に強調していた。 くずれゆく食屍鬼を見つめていると、何かが頭の中に浮かんでくる。 ゴミ同然の人間が塵に還っただけ、それだけのはずなのに、何か別の光景がフラッシュバックする。 大勢の食料(エサ)が自分を見て顔を青くしている。 自分は、机の上に置かれた石ころが食料どもに見えるように、教壇の後ろへと回った。 今のようなエクスプロージョンではなく、練金を唱えて爆発が起こり、そのときの光で火傷を負った、その時あのゴミどもは、私に…キュルケは……… 「ツェルプストー……」 学生寮では隣の部屋にいた女、男を連れ込み楽しんでいる、ふしだらで下卑た女。 そして誰よりも我が儘で、そして誰よりも自由で、そして憧れていた女! あの褐色の肌にわたしを刻み込みたい、そうして永遠に私に微笑みを向けさせたい。 あれをわたしのものにしたい。 どくん!と心臓が跳ねた。 心臓が無くても、吸血鬼の肉体は全身に血を巡らせるが、基本的には人間と同じように感情が体に影響を与える。 風化した食屍鬼の臭いが漂う森の中で、ルイズは一人高鳴る胸の鼓動に、未知の快感と期待と、暗闇に光の差し込むような晴れ晴れとした気分を味わっていた。 「!」 不意に、ルイズの直感に何かが響いた、それは不自然な木ずれの音だったか、それとも遠くから聞こえてきた鳥の鳴き声が止まったことで感じたのか分からない。 しかし、確かに何かの異変を感じ取っていた。 ペキ、という小さな音が聞こえる、おそらく木の枝が折れた音だろう、いつの間にか10メイル近くにまで何者かの接近を許していた。 普段なら考えられない事だが、興奮して周囲の見えなくなっていたルイズには仕方のないことでもあった。 がさがさと草をかき分ける音が聞こえる、ルイズは音のする方向に目を向けた、そこには顔に火傷の痕を負った傭兵らしき男がいた。 マントを身につけているところを見ると、メイジなのだろう、優れた風のメイジか、木々の水を感じられる水のメイジだろうか、それとも地面の感触から周囲を知る土系統だろうか。 「おや、なんだ? 人間じゃあ無いな」 「………」 ルイズは無言だった、人間じゃないという呟きが本気だったとしたら、目の前の男は焦点の合わない濁った目ではなく、別の何かで自分という存在を判断している。 ルイズは呼吸を止めた、男の濁った目を見たからだ、あの目は何も映していない、かわりに聞こえてきたのは鼻息。 原理は分からないが、この男はルイズと同じように、五感の視覚以外のものに重きを置いているのだろう。 ルイズはゆっくりと、髪の毛をうちいくつかを逆立たせて空気の流れを感じ取る、まるで触覚のようなそれは周囲の音と風の流れを敏感に感じ取り、目の前の男の動きを感じ取る。 「なあ、教えてくれ、この臭いは何だ?燃やしたかと思ったが違う、人間だが人間でもない、まるで人間が泥になって、それが焦げたような死の臭いだ」 ルイズは無言のまま、腕から吸血馬の毛を伸ばし、剣へと形を整えていく。 「それに、おまえ。体温が低いぞ、石の裏に張り付いたトカゲのようだ、なのに、おまえは断頭台と同じ臭いがする!」 走り出すように重心を下げて地面を蹴る、水平に跳躍したルイズは一瞬で男との間合いを詰めて、手首から指先に向けて伸びた剣を振り下ろした。 パァン!という破裂音にも似た音が響く、ルイズの剣と、男が持つ金属の棒が衝突した音だ。 ルイズはその瞬間、悪寒という危険信号を受けて距離を取ろうとした、鉄の鎧でも切り裂ける吸血馬の毛が、鉄の棒で弾かれたのではなく、いなされたのだ。 人間を頭から一刀両断すべくこめられた力は、予想外の方向に逃げ、大きく崩れたルイズの体勢は一瞬の隙を作ってしまった。 「……っ!」 足を踏ん張り追撃しようとするルイズの目に、赤黄色に燃える炎が映る、咄嗟にデルフリンガーを構えようとして…背中に回した手が宙を切った。 「あ」 ボジュッゥと音を立ててルイズの右脇腹に炎が当たる、男の放った炎は、今までに感じたことのない程高密度なものだった。 ニューカッスルから脱出するときも、レキシントンに乗り込んだ時も、これほどの痛みは無かった。 「GAAAAAAAAAAA!!あ゛ はあ゛っ!」 炎は硫酸のようにルイズの体を浸食し、容易く肺にまで達した。 「はぐう゛ うぶっ……」 炭化した細胞は再生されず、もはや役に立たない、それどころか再生のために増殖しようとする細胞すら阻害している。 「いい臭いだ、思った通りだ、いや思った以上だな!断頭台の臭いだ!」 高笑いする男を睨もうとして顔を上げたが、姿はない、すでに木の陰に隠れているのだろう。 「ごろ じ でやる…」 肺を再生すべく漏れた体液が口にまで逆流し、喉に炭混じりの粘液がせり上がった。 ルイズは、油断していた。 相手を「風」か「土」のメイジだとばかり思いこんでいたのだ。 男の瞳は、焦点の合わぬ濁った瞳だった、それでも森の中を通り抜けられるのは、周囲の空間を敏感に察知できる風系統に違いないと思いこんでいたのだ。 一撃で自分を葬るほど強力な、火のメイジだとは思っても見なかった。 ルイズは周囲を見渡しつつ、視聴覚に神経を集中させる、一部焼けてしまった髪の毛を逆立たせて、空気の流れと熱を感じ取ろうとしていた。 「!」 真後ろから飛んできた熱の気配に驚き、ルイズは咄嗟に脇へと飛んだ。 炎はルイズが居た地面に衝突し、ぐわっと高熱を発して地面を抉る。 ルイズは炎の飛んできた方向を見ようとしたが、地面に落ちたはずの炎から一回り小さい炎の玉が現れたのを見て、地面をえぐり取るように腕を振った。 大人の腕ほどもある木の根を何本も巻き添えにして、エア・ハンマー並の土と風が炎の玉を襲う、ルイズは火の玉が動きを止めたのを見て、その隙に手近な木の幹に手を差し込んだ。 まるで『ブレイド』で刃と化した杖のように、ルイズの指先は硬質化して木の幹へと吸い込まれる。 腕に力を入れ木の幹を半分ほど引きちぎり、そのまま腕の水分を気化させて凍り付かせ、火の玉へと投げつけた。 バシュゥ!と音が響く、真っ赤に焼けた鉄棒を水に浸けたような音だ、それを聞いて盲目の男は、口元が醜くゆがむのを止められなかった。 「面白いぞ!先住魔法か、吸血鬼か?なるほど昼間なのにご苦労なことだ!」 ルイズは答えない、自分の位置を悟られないために息を潜め、音を立てぬよう静かに両腕から剣を生やす。 今の声で、相手の位置は掴んだ、問題はそこまでの距離、わずか8メイルなのに木々が障害物となり、思うように相手に接近できない。 直径1メイル程度の木なら蹴り倒して、文字通り蹂躙することはできるが、相手のファイヤー・ボールに対応できなくなる。 エクスプロージョンは使えない、詠唱が長すぎるだけでなく、自分の身まで危うくなる。 接近しなければ、相手を倒す手が無い。 …そう思いこんでいたルイズの素肌に、正面から飛び来る熱の感覚があった。 バックステップで木を背にし、火の玉が衝突する寸前で回避したが、また別の火の玉が地面すれすれを飛んで来た。 「くっ!」 余裕のない戦いに、ルイズは焦りを感じていた。 一方、別の木の影に身を隠した、盲目の男にも焦りがあった。 相手の斬撃を杖でいなすことは出来たが、その時の衝撃はオーク鬼とは比べものにならぬ程強烈だった。 かろうじて骨折は免れたが、右腕全体がしびれ、感触がない。 治癒の得意な部下に治させなければ不味いな、とまで考えていた。 そんな不安があっても尚わき上がる興奮が、男を狩猟者に仕立て上げていく、今まで炎を追い続けてきた自分が、炎とは正反対の、冷たいものに気を惹かれたのだ。 どんな容姿をしているのか分からないが、数メイル先に潜む女は、間違いなく剃刀のような鋭さと氷のような冷たさを兼ね備えている。 そして何より死の臭いがする。 屍体の臭いではない、自分が死ぬ、それを連想させるだけの力が相手には備わっている。 それこそが死の臭い。 「ガキどもを燃やす前に、こんな相手と出会えるとはな…くくくく…」 腹の奥からせり上がる笑みは、まさしく狂人の笑みであった。 「…また、外した」 顔をかばった右手、その指先が炭化して崩れ落ちた。 だが、それが少し不可解だった、正確に体の中心を狙ってくる火の玉が、気化冷凍を行った時だけブレるのだ。 「音じゃない…熱、そう、火のメイジなら熱ぐらい感じ取れる、そういうことね…!?」 ルイズは手近な木に手を当てると、腕の温度をグンと引き下げて、木の幹を凍り付かせた。 「おおおおあああああアァッ!」 全力で打ち込まれた回し蹴りが木の幹を砕き、凍り付いた木片を飛散させる。 一方盲目の男は、ズドォッ!という爆発音と共に、周囲の温度が急激に乱れたことに驚かされた、だがすぐに冷静になると身を低くして襲撃に備え、周囲の熱を感じ取れるよう集中しはじめた。 「…………ナウシド・イサ・エイワーズ」 その耳に聞こえてきたのは聞き慣れぬ詠唱の声。 「先住魔法か?」 盲目の男は、声の聞こえる方にどんな「熱」があるのか感じ取ろうと集中した、だが周囲の温度が下がったままで上手く感じ取れない。 「ちっ、無駄遣いだな」 そう呟くと、ファイヤーボールを詠唱し、火の玉を声のする方に向かって飛ばしていく。 密度の薄いそれは、人間が歩くほどの速度で木々の隙間をすり抜けていく、それによって熱せられた地面や木々の「熱され方」で、地形と状況を判断していった。 先住魔法の中でもやっかいなのは、木々のツタを自由自在に操る魔法と、風の刃だとされている。 大地を操る先住魔法や、姿形を変える魔法はごく希で、噂しか伝わっていない。 しかし吸血鬼や翼人、いわゆる亜人と戦った中では、風の刃や木々のツタが特に厄介だった。 だが、先住魔法はルーンの詠唱ではなく、言葉を用いて語りかけるように唱える。 故にどんな魔法が行使されるのかすぐに分かるのだが、今敵対している相手から聞こえるルーンは、今まで一度も聞いたことがなかった。 「ニード・イス・アルジーズ……」 「そこか!」 ようやく特定できた位置に向けて、高密度のファイヤー・ボールを飛ばす、途中にある木々を焦がしながら風きり音を鳴らして敵へと向かっていく。 「ベルカナ・マン・ラ ぎゃあっ! 」 「捕らえたぞ!」 追撃をすべく、ファイヤーボールを上回るフレイムボールを詠唱しようとしたところで、周囲の空間が歪んだ。 「がァッ!ああぐ、うぐっ…」 ルイズが唱えていたのは、ティファニアの得意とする忘却の魔法だった、一時的に戦意を喪失させれば勝てると思い、これを選んだ。 しかし忘却の魔法は相性が悪いのか、ルイズが唱えるときはエクスプロージョンと比べて高い集中力を要求される上に消費する精神力も大きい。 そのため、詠唱中に意識を失うこともある、ほんの一瞬出来た隙に、ファイヤーボールが打ち込まれ、ルイズの胸に大穴が開いた。 だが、忘却の魔法は不完全ながら発動したのか、相手の動きが途切れたのが分かる。 「あ、足が……動け、うごけっ」 胸に開いたこぶし大ほどの穴から、炭化した脊椎がぼろぼろとこぼれ落ちる。 びくん、びくんと足の筋肉は動くものの、力が入らず立つことができない、仕方なく両手に力を入れて、体を引きずっていこうとしたそのとき、遠くから草をかき分ける音と、足音が聞こえてきた。 「隊長!」「お頭ァ!」 「…んん?ああ、なんだお前ら、こんなところでどうしたんだ」 「お頭がなかなか戻ってこないんで、探しに来たんですよ、どうしたんですかい、杖まで落として」 「杖? ……ああ、手が痺れて落としたんだ、あ?おかしいな、俺はなんで手が痺れてるんだ?そもそも俺は……」 「た、隊長、そろそろロサイスに向かわないと、トリステインに間に合いませんぜ」 「そうですぜお頭、魔法学院とやらを、焼き尽くしてやるんでしょう?」 「……ああ、そうだ、そうだな。トリステインに行くんだった……ああ、くそ!いい香りがあったのに、焼き損なった!ガキどもを燃やしたぐらいじゃ足りなさそうだ」 「お頭、いったい何を」 「まあいい、ロサイスに行くぞ、良いところだったのに水を差された気分だ、焼き尽くしてやる、ガキも大人も、じじいもババァも、全部だ」 ガサガサと音を立てて、ルイズから離れていく男達の会話は、ルイズが見過ごせるものではなかった。 「まほう…がくいん……ああ…伝えなきゃ…伝え…なきゃ…」 未だ動かない下半身を引きずって、ルイズは動き出した、男達とは別の方向へ、ロサイスとはほぼ逆方向の、ウェストウッドへと。 周囲の音を確認しながら、下半身を引きずって移動するのは、予想以上の神経を使う。 その上気化冷凍法を使いすぎ、体液が激減した体では肉体が再生しにくいので、何者かと出会うことは避けなければならなかった。 「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」 乾く、喉が渇く、体が乾いている。 どうしようもない程の乾きが襲いかかってくる、それを癒すのは水ではなく、血。 血がほしい、血がほしい、血がほしい! 時折、街道が見える位置まで移動し、自分の位置を確認しながら、ルイズは腕だけで体を引きずっていく。 「ハァッ……ハァ……ァ……」 目の周りが乾き、唇はガサガサに固まり、口内は水分を失い萎縮している。 日は傾き、そろそろ夕方になろうとしている。 「あ……グ…」 ネズミ一匹捕らえられない体が、とても恨めしかった。 その気になればハルケギニアを食屍鬼うごめく死の国に出来る、けれども今自分は死にかけている。 どんな巨大な力があっても、飢えと乾きには決して勝つことができない。 ほんの少しの、ほんの少しの血が欲しい。 鶏でも、ネズミでも、野ウサギでも何でも良い、ほんの少しの血があれば体が再生できる。 ルイズは、仰向けになって、木々の隙間から見える空を見上げた。 夕焼けが終わりかけた空の色は、死体に溜まった血のように紫色をしていた。 「うわ!なんだ、行き倒れか」 「お父さん、どうしたの?」 「こっちに来ちゃ駄目だ、…こりゃひどいな、なぶり殺されたのか…」 ルイズの頭上で誰かの声がした。 二十代後半ほどの、たくましい体つきをした男が、ルイズの側に跪き首に手を当てている。 「体温もない…駄目か」 「ねえお父さん、その人…」 「ジュディ、駄目だよ、この人はもう死んでるんだ、あまりじろじろ見ちゃいけない。…それよりも木の実は捕れたかい?」 「うん、こんなに取れたよ」 「そうか、駅で夕食にしよう。もうそろそろ夜になる…明日はこの人を埋めてやらないとな」 そう言って男は、駅のある方向を見た。 町から町へ移動するのに、馬で二日三日が当たり前なので、途中に宿泊が出来る”宿場”や、馬を預けて休むことが出来る”駅”が街道沿いにあるのだ。 「…今、埋めてあげられないの?」 「もうすぐ夜になる、手伝ってくれる人がいれば別だけど、ほら見てごらん、街道にも人はいない、それに声をかけても手伝ってくれないさ。明日にしようね」 「うん…」 男は、ジュディと呼んでいる少女の頭に手をのせた、厚手の布で作られたエプロンドレスのスカートをたなびかせて、少女は元気よくうなずいた。 「ごめんなさい。あした埋めてあげるから…」 そう言ってルイズに近寄った少女の額に、銀色の何かが突き刺さった。 男の視線からは何も見えない、ジュディの額を貫いた刃も、もちろん見えることは無い。 「ジュディ?」 じっとしゃがみ込んだまま動かない少女を訝しみ、男が声をかけた。 ぐらりと少女の体が倒れる。 「ジュディ!?おい、どうし…た…」 抱き起こして顔を近づけると、薄暗い森の中でも分かるほど、少女の顔には大きい亀裂が走っていた。まるでザクロのように。 「……うわああ ぐっ…!……!…!!!」 叫び声を上げようとした男に、ピンク色の髪の毛が絡みつく、髪の毛はズブズブと皮膚を浸食し、男の体から血液を搾り取る。 ルイズは、男が抱き上げていた少女の亡骸を取り上げると、首筋にかみつき、肉を引きちぎり、租借した。 どんな巨大な力があっても、飢えと乾きには決して勝つことができない。 ほんの少しの、ほんの少しの血が欲しい。 鶏でも、ネズミでも、野ウサギでも何でも良い、ほんの少しの血があれば体が再生できる。 ささやかな食事を望んだのに、それなのに、人間という極上のエサが来た。 ああ始祖ブリミルよ、あなたに感謝いたします。 …… 「ふわ…」 いつになく清々しい朝を迎えた。 木漏れ日は柔らかく、そして優しい。 まだ日の出から間もないようで、空は少し暗いようにも思えた。 「ああ…よく寝たわ」 呟きつつ背伸びをする、両手を組んでうーんと背を伸ばし、首を左右に振ると、目が覚めてくる。 「ああ、そうだ、こうしちゃいられない。魔法学院が襲撃される…急いでワルドに伝えないと!」 立ち上がり、両手、両足の感触を確かめる、昨日焼かれた部分をなでると、さすがに違和感があった。 吸血鬼の体でもすぐには再生できない、ひどい怪我だったと、ルイズは記憶している。 それなのに多少の火傷痕が残るぐらいで、機能的にはほとんど問題ないレベルにまで回復している、ルイズはそのことに驚いた。 「怪我の治りが早いのは、いいわね」 そう呟いてあたりを見回し、誰かに見られていないかを確認する。 街道からは近すぎず遠すぎず、しかし一目では分からない距離。 今のところ誰にも見られていないだろう、そう考えてウェストウッドへ足を向けたルイズは、地面に転がった何かを蹴飛ばした。 「あれ?」 見るとそれは、男の首。 その傍らには、獣に食い散らかされたような、少女の左半身。 「え…」 鮮明に、喜びと共に浮かんでくる昨夜の記憶。 犬のように四つんばいになり、男の体から血を吸い、少女の肉を味わい…… 「あ、ああ、あああああ」 ルイズは駆けだした。 ここに止まるべきではないと、初めて盗みを犯した小心者のように、怖くなって逃げ出した。 しかし何よりも怖かったのは、少女の肉の味を思い出した瞬間のこと、ルイズ自身が感じていたのは嘔吐感ではなく、美食を味わう幸福感だった。 「たすけて」 森の中を一心不乱に走り抜けながら呟く。 「たすけてよ、助けてよ! ブルート!」 To Be Continued→ 66< 目次 68
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1291.html
アルビオンの首都、ロンディニウムの外れ。 いかにも安っぽい作りの宿屋に、髭面の大男が入っていく。 「姉御、駄目だったよ」 男は椅子に座ると、ベッドの上に座るルイズに言った。 「どこも貴族派の口利きばかり?」 「ああ、ジョーンズが探してくれてはいるけど、期待はしねぇでくれってさ」 「…そう」 数日前、ルイズが王党派につくと言った時、ブルリンが驚いた。 ルイズは聞き耳を立てて知っていたが、ブルリンは王党派の現状が絶望的だとルイズに忠告し、何度も考え直せと言った。 しかしルイズは頑として聞き入れない、一度決めたことは全うする、それがルイズの頑固なところだった。 仕方なくルイズに折れたブルリンは、ジョーンズに王党派への口利きを頼んだ。 しかし、口利き先もほとんど潰されてしまったらしく、王党派に雇われるのは困難らしい。 何せ王党派は賃金も安いし勝ち目も少ない、貴族派はまず傭兵の口利き先を掌握していた。 王党派に協力しようとする者を探しだし、それを秘密裏に処分したり、より高い賃金で雇うのだ。 ジョーンズの話では、貴族派が登場する前にも、アルビオン王家にはお家騒動があったとまことしやかに噂されている。 ルイズは、信憑性が高いと睨んだ。 なぜなら今回の内乱はただのクーデターではなく、様々な人の思惑の混じった、泥沼の戦いに発展しているからだ。 貴族派の噂は決して良いものではない、農村部からの物資略奪はもちろんのこと、占領した町の民を餓えさせ王党派を誘い出すやり方や、空軍戦力をわざと町に落としアルビオン王家の信頼を失墜させる自作自演。 すべては噂の域を出ないが、なぜかルイズにはその噂を信じる気になっていた。 それには、何処か憎めない、ブルリンという男のキャラクターが助けていたのだが、本人はそのことに気づいていない。 「とにかく、俺はもう一度探してみるよ」 「アタシも行くわよ」 「いいって!それに、昨日酒場でとんでもない豪傑女が居たって、姉御のこと噂されてるんですぜ」 「そう…分かったわ、ここ(宿)で武器の手入れでもするわよ」 ブルリンが宿を出たのを確認すると、ルイズは浅茶色のベッドで横になった。 吸血鬼になったおかげか、オークやトロル鬼の血を吸う生活のおかげか、ルイズは貧しい平民が利用する宿屋でも平気だった。 以前のルイズならば、魔法学院の部屋以上の部屋でもなければ泊まろうとも思わなかっただろう。 ブルリンは『傭兵になるのなら風呂に入れないのは覚悟しなきゃ』などと言っていたのを思い出す。 吸血鬼の肉体は垢も汗も体臭もコントロールできるので、風呂に入れなくても不都合はないし、ノミが血を吸おうとしても血が出ない。 清潔を心がけ、香水で身だしなみを整えていた頃の自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる程だった。 「…デルフ、あんた、どう思う?」 ルイズが寝そべったまま、壁に立てかけてあるデルフリンガーに聞く。 『何がだよ』 「貴族派の首謀者よ、クロムウェル…」 『虚無の力に目覚めて、貴族の心を掴んだって奴か?うさんくせぇなあ』 「私も信用できないと思うわよ、夢物語が過ぎるわ…デルフはどうして胡散臭いと思ったの?」 『いや、なんかさあ、どっかに引っかかってんだよなあ、虚無ってどっかで聞いたような…うーん』 「アンタずいぶん古そうだもんね、始祖ブリミルにでも会ってたりして」 『いや、俺を作ったのはブリミルなんだけど、漠然としか記憶に残ってないんだよな』 「…プッ、あんた冗談が上手いじゃない」 『おいおい、冗談じゃねえぞ、俺は何せ6000年も生きてるんだかんな!嬢ちゃんよりずっと年上だ』 「6000年…ね」 ルイズは考える。 自分はまだ二十年にも満たないが、吸血鬼の寿命は極端に長く、これから先いくらでも生きていられるという自身がある。 200歳、300歳の吸血鬼が討伐されたという話はたまに耳にする。 しかし、6000年も長く生きた吸血鬼の話など聞いたことはない。 デルフリンガーは一種のマジックアイテムとして意志を持ってはいるが、それは人間より吸血鬼に近いものなのだろう。 傭兵になろうと思ったのは、本当に金を稼ぐためだろうか? もしかしたら、誰かの記憶に残りたいと思っているのではないか。 もしかしたら、死を偽装したのは、間違いだったのでは… 思考の海に沈みそうになった時、一階からブルリンの声が聞こえてきた。 『何しやがる!このっ、くそっ!』 ルイズは意識を覚醒させ聴覚に集中する。 「…足音、六つかな」 中央から床板のきしむ音、ブルリンだろう。 その周囲を囲む足音は、床板がきしむ音に合わせてどたどたと動いている。 ブルリン一人を五人で取り押さえようとしているのだと分析し、ルイズはベッドから飛び降りた。 『嬢ちゃん、俺を使うのか?』 「ここじゃ使わないわ」 フードを深く被り、デルフリンガーを背負う。 剣の扱いは素人同然なので、ルイズはデルフリンガーを使わぬよう、鞘に入れたまま部屋を出る。 屋内で振り回したら建物ごと破壊してしまう。 もっとも、素手でも十分破壊できるのだが… 一階に下りるとブルリンが他の傭兵らしき男達に押さえ込まれていた。 「何やってんの、あんた」 「ちょっ、姉御!逃げてくれよ!」 ブルリンが『姉御』と呼んだのに気づき、ブルリンの腕を縛り終わった傭兵がルイズの腕を取る。 そのままデルフリンガーも回収されてしまったが、ルイズは特に抵抗もせず縛られることにした。 「あんたねえ、こう言うときはお互いに知らんぷりするんじゃない?姉御だなんて呼んで、馬鹿じゃないの」 「そっ…そんなこと言ったってよぉ」 取り押さえられながら、情けない声を上げるブルリンと、余裕そうなルイズ。 そんな二人の会話を中断するかのように、傭兵の一人が割り込んできた。 「お喋りはそこまでにしろ、王党派を貴族派に差し出せば報酬が貰えるんだ、大人しくしてりゃ怪我はさせねえよ」 「くそっ、やっぱり貴族派の連中かよ!くそっ! …あ痛ぇ!」 傭兵の一人が、騒ごうとするブルリンをきつく縛り上げる。 「ブルリン、言われたとおりにしましょう…ね」 床に転がされているブルリンが、フードに隠されたルイズの顔を見上げる。 ルイズの瞳は、血のように鈍く輝いていた。 「親方、そっちはソースの鍋ですよ、しっかりなさってください」 「ん?ああ、すまん」 トリスティン魔法学院の厨房、その料理長のマルトーに覇気がない。 慣れた料理にも、ちょっとしたミスをしそうになり、仲間のコック達が心配するほどだ。 その原因は、数日前に厨房を辞めていった使用人の少女シエスタにある。 料理長のマルトーは、シエスタが何か粗相をしてクビにさせられるのかと思いこんでしまった。 驚いたマルトーは、オールド・オスマンを問いただそうとした。 しかし、厨房の仲間達は『いくらなんでもそりゃ無茶だ』と言ってマルトーを止めようとする。 力づくでも学院長室に乗り込みそうなマルトーを迎えに来たのは、ミス・ロングビルだった。 この件についてオールド・オスマンから説明があると伝えられ、マルトーは学院長室に入っていった。 「オールド・オスマン…」 「おお、すまんのマルトー、優秀な人材を奪うようで気が引けるんじゃが」 「い、いいえ!あの、それより、シエスタが粗相をしてもこれは厨房全員の責任です、あの娘一人に責任を押しつけるのは」 「ふむ、何か誤解しているようじゃな、何か粗相があって辞めさせるわけではないぞ」 「で、では、何処かに身請けさせられるんで?」 「身請けというより、入学かのぉ」 入学って何のことだろう…と、マルトーは首をかしげた。 「入学って言いますと、も、もしかして、そういうプレイを」 「それは秘書で試すわい、シエスタはここ、トリスティン魔法学院に入学という形になるんじゃ」 「へっ?」 マルトーが呆気にとられる。 ミス・ロングビルは後でオスマンを簀巻きにして流そうと考えたが、話の続きを聞くためにあえて黙っていた。 平民のメイドが突如魔法学院に入学という異常な事態、興味が湧かない方がどうかしている。 「すまんの、マルトーはシエスタの保証人でもあったからの、追々伝える予定じゃったが」 「はぁ…もしかして、シエスタがここに入学できるって事は、シエスタのじい様は本当に貴族様だったんですかい」 シエスタのじい様と聞いて、オールド・オスマンの目が一瞬だけ鋭くなる。 しかし、すぐにいつもの優しい視線に戻ると、静かに語り出した。 「…正確にはシエスタの曾祖父母の話になるがの」 オールド・オスマンがマルトーに事の次第を説明している間、シエスタは空の上にいた。 『きゅいきゅい』 (お姉さま、やっぱりこの人もメイジだったのね、他の人と違うにおいがするの!) 「あまりはしゃいじゃ駄目」 『きゅい』 (はーい) シルフィードがテレパシーのようなものでタバサに語りかける。 タバサはシルフィードに乗っていても本を手放さず、素っ気なく返事をする。 今朝、タバサとキュルケはオールド・オスマンに呼び出され、シエスタをタルブ村へと急いで連れて行けと指示されたのだ。 まだ空に不慣れなシエスタを後ろから支えながら、キュルケが話しかける。 「上質のぶどう酒が採れるんですって? 楽しみね」 「そんな、貴族様にお出しできるようなものじゃありません、自分で飲むために作ってるんですから」 「そうなの?」 「ええ、ひいお婆ちゃんが草原の一角を葡萄畑にして、自分で作っていたのを細々と続けているだけなんです」 シエスタは魔法学院の制服を着て、オールド・オスマンから渡された30サンチ程の杖を身につけている。 マントに慣れないのか、時折位置をただしている。 「あの…驚かれないんですか?」 「何が?」 シエスタの唐突な質問にキュルケが返す。 「だって、私、この前までメイドだったのに、突然メイジになれだなんて言われて…」 「あら、トリスティンならともかく、ゲルマニアなら経済力や商才があれば、貴族にもなれるし公職にも就けるのよ?」 「えっ、そうなんですか」 「そうよ!実力があれば平民も貴族になれるの、不可能を可能に出来る人って素敵じゃない?」 「はあ…」 「あなたも実力を見いだされたんだから、ちょっとは自信を持ちなさいよ」 シエスタの心の中に、ルイズへの思いが募る。 ルイズと入れ替わるかのように知り合った二人の貴族、キュルケとタバサ。 ルイズの死んだ場所に行ったあの日、シルフィードはシエスタを見て『太陽の臭いがする』と言い出した。 ある日、キュルケのサラマンダーまでもが同じ事を言い出したのだ。 不思議に思ったキュルケがタバサに聞くと、シルフィードも同じ事を言っていたと聞き、キュルケはシエスタを「不思議な平民」だと思っていた。 だが、オールド・オスマンの鶴の一声で、トリスティン魔法学院に入学させられる程だとは考えてもいなかった。 ゲルマニアは実力主義の気があり、魔法だけでなく平民の工業技術にも力を入れている。 トリスティンは貴族主義的な気があるので、平民がどんなに努力してどんなに功績を立てても、シュヴァリエ以上の名誉が与えられることはない。 しかしゲルマニアは違う、その能力と財力次第で公職にも就くことができる。 そんな国出身のキュルケでも、以前ならシエスタを平民上がりかと小馬鹿にしていたかもしれない。 ルイズが死んでからというもの、キュルケは後輩を気遣うことが多く、特に下級生から慕われることも多くなっていた。 何よりも、勝ち気なルイズとは正反対の大人しさを持つシエスタに、ルイズの面影が見えた気がしたのが、その原因だろう。 オールド・オスマンの話では、シエスタはルイズと同じか、それ以上に特殊なケースらしい。 シエスタはルーンを詠唱することで発動する魔法ではなく、口語によって発動する魔法に特化しているそうだ。 そのため、今まで魔法の才があるとは思われていなかったとか。 ルイズの件で反省し、魔法に対する認識を改めたオールド・オスマン。 彼はシエスタを特別なケースとして魔法学院に迎え入れ、既存の魔法だけでなく新たな魔法の発見に力を入れるのだそうな。 キュルケの興味は、『どんな魔法も爆発させる』仇敵ラ・ヴァリエールの娘から、 『水の魔法より純粋な生命力を操る』元平民のメイジへと移っていた。 [[To Be Continued → 仮面のルイズ-14]] ---- #center(){[[12< 仮面のルイズ-12]] [[目次 仮面のルイズ]]} //第一部,石仮面
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1767.html
サー・ヘンリー・ボーウッドは、自らが艦長を務めるアルビオンの旗艦「レキシントン」の弱点を知っていた。 ついこの間の艤装作業で、この戦艦の内部構造は数カ所の弱点を生み出してしまった。 『ロイヤル・ソヴリン』と呼ばれていた頃、この戦艦まさに無敵だと言えたのだが、新式の大砲を積み込み、砲弾、炸薬の収納庫を拡張したせいで、この戦艦は内部破壊に弱くなってしまった。 強くなったのは外に向けられた武装だけなのだ。 ニューカッスル城から脱出したという噂の『騎士』『鉄仮面』。 レキシントンに侵入したのがその『騎士』だとしたら、もしそれが噂通りの力を持っているとしたら、この戦艦はあと何分持つだろうか。 アルビオンの誇る竜騎兵を失った今、レキシントンの内部を守るメイジの数は限られていた。 そこに伝令の一人が飛び込んできた、伝令は息を切らせながら、悲鳴のような声で報告をした。 「『騎士』は、風石を狙っております!」 「KUAAAAAAAA!!」 ドカン!と、爆発音のような音を立て、火薬庫の扉が吹き飛ばされる。 ルイズが体当たりで扉ををぶち破ったのだ。 手当たり次第に壁をぶち壊し、扉を破壊しつつ、ルイズはウェールズから教わった風石庫の場所へと突き進んでいた。 風石の納められている部屋は火薬庫と同じぐらい丈夫な隔壁に包まれていた。 だが、吸血鬼の腕力で振るわれたデルフリンガーの前ではほぼ無意味、鉄の扉や壁がバターのように切り裂かれる姿を見て、レキシントンの乗組員達は戦慄した。 駆けつけてきたメイジ達が、背後からルイズに魔法を繰り出す。 だが、ルイズは自身に飛来する水、風、炎の固まりをデルフリンガーで打ち払った。 熱で溶けかけた鉄の仮面越しに、声を野太く変声させて、ルイズが叫ぶ。 「死にたくなければ失せろおッ!」 殺意と視線と怒声に射竦められ、メイジ達は、デルフリンガーの峰で小石を蹴飛ばすようになぎ払われていった。 「うおあああああああああああああッ!!!!!」 叫ぶ。 ルイズは一心不乱に叫び、火薬庫の扉を破壊し、壁を破壊し、大砲の発射台を破壊する。 アルビオンは木材資源が豊富であった。 戦艦にも木材が使われるが、固定化などの魔法で保護されており、魔法や火竜のブレスによって燃やされるということはほとんどあり得ない。 こと戦艦の事情はトリステインもガリアも同じであり、それを知っているからこそ、固定化のかけられた船体を打ち砕けるほどのカノン砲を使った戦闘に頼ることになるのだ。 今、レキシントンは、石仮面という名の大砲を船内に持ち込まれているのと同じ状態であった。 一心不乱にデルフリンガーを振るう、レキシントンの内部を破壊するためだけに振るう。 人間のことは考えない、人間はなるべく殺したくない。 吸血鬼の腕力でデルフリンガーを操るルイズ、その姿はまさに化け物だった。 それなのに内心では、人間を狙って殺さぬよう、船内の破壊に意識を集中させている。 飛び散った破片で人間がちぎれ飛ぶのは、仕方のない巻き添えなのだと自分に言い訳するために、「死にたくなければ去れ」と叫び続けていた。 「っぶ ぐ」 不意に何かが躰を貫いた、一瞬、ルイズの動きが止まる。 床から生えた何十本もの槍が、ルイズの躰を貫いていた、土系統のメイジが練金したものだと容易に想像できる。 動きの止まったルイズを焼き尽くさんとして火球が襲いかかる。 だがルイズは躰に突き刺さった槍をものともせずデルフリンガーを振るう、火球はデルフリンガーに吸い込まれて消滅した。 ルイズが動くたびに、槍がルイズの体に穴を空けて肉を裂いていく、心臓や首にも槍が突き刺さり、血があたりにまき散らされた。 だが、その傷は片っ端から再生されていく、体を引き裂かれたアメーバが元の形に戻るように、傷口が塞がっていく。 一人のメイジが叫ぶ。 「ばけも の!」 叫びきらぬうちにメイジの体は一刀両断された。 「わあああ!」「ひいっ」「あああああああ!!」 ルイズは力づくでデルフリンガーを振るい、船の隔壁ごと人間を破壊していった。 アンリエッタとウェールズが空を見上げる。 ラ・ロシェール上空で停泊していたレキシントンの艦砲射撃が止み、高度が落ちてきたのだ。 周囲に停泊する戦艦も艦砲射撃が止めている、おそらくレキシントンを巻き添えにするのを恐れているのだろう。 「お二人をお守りしろ!」「右翼は突撃体制に入れ!」「タルブ方……」 檄を飛ばす将軍達の声が聞こえなくなる、魔法衛士隊がアンリエッタとウェールズを囲み、筒状の風の障壁を繰り上げているせいだ。 その中央にはグリフォンにのったアンリエッタとウェールズがいる、二人は杖を掲げ、呪文を詠唱し、周囲に竜巻を巻き起こした。 この竜巻はただの風ではない、むしろ台風とも呼べるものであった。 アンリエッタが呪文を唱え、周囲の空気中から集められる限りの水分を集めていく。 ウェールズがそれに重ねて詠唱し、アンリエッタが集めた水分混じりの空気に竜巻状の動きを与えていった。 竜ではない、東方の『龍』を思わせる水の竜巻が、二人の周りをうねり始めた。 アンリエッタの『水』『水』『水』。 ウェールズの『風』『風』『風』。 トライアングル同士といえど、魔法を重ね合わせるほど息が合うことはほとんど無い。 しかし、選ばれし王家の血と、二人の思いがそれを可能にさせている。 王家のみ許された技術である『ヘクサゴン・スペル』が、今ここに発動していた。 二人の魔法が互いに干渉しあい、巨大に膨れ上がる、まるで大津波のようなエネルギーを持った竜巻が向きを変えて、居並ぶアルビオンの船を飲み込んでいった。 荒れ狂う。 風の力を借りた水滴が、戦艦の窓や隙間へぶつかり、船体をきしませていく。 何人もの人間が宙を舞って吹き飛ばされていくのが見える。 時には弾丸のように、時には巨人の腕のように、竜巻が船を破壊していった。 「これが王家の技か!」 地上で、誰かが叫ぶのをマザリーニが聞いていた。 マザリーニの心にも、希望という名の光明が感じられたが、すぐにそれを意識の外へと排除した。 全軍の指揮を任せられた以上、今やるべき事は決まっている。 浮かれている将軍達が油断と慢心を抱かぬよう、注意しなければならない。 もう一つは、『ヘクサゴン・スペル』を使い、魔力を使い尽くした二人をどうやって守るか。 先王亡き後、一手に政治を引き受けてきたマザリーニ枢機卿。 そんな彼だからこそ、冷静にこの戦況を見ていられたのかもしれない。 ヘクサゴン・スペルが艦隊を飲み込む直前、レキシントンから飛び出した影があった。 レキシントンの砲座を、デルフリンガーで無理矢理広げたルイズが、トリステイン軍の方角とは逆方向に飛び出していたのだ。 「WWRYYYYYYYY!」 叫び声をあげつつ、きりもみ状態になって地上へと落下するルイズを、吸血竜が空中でキャッチした。 ドスン!と音を立てて、吸血竜の背中でキャッチされたが、人間なら五体がバラバラになっていてもおかしくない衝撃だった。 「グルルル……ゴアッ」 「く…あんたも酷くやられたわね」 よろよろと立ち上がりつつ、吸血竜の背中を見たルイズが呟く。 翼は3枚しか残されておらず、残った翼も穴だらけでボロボロになっている。 胴体にも穴を穿たれた跡や、切り裂かれた跡が残っている、吸血鬼化した生物でなければ既に死んでいただろう。 「ワルドはどうしたの?」 「グルルルル…」 『遊ばれた、って言ってるぜ』 デルフリンガーが吸血竜のうめき声を翻訳する。 「遊ばれた?」 ワルドの実力は、やはり並大抵ではないと気づき、ルイズは背筋に冷たいものを感じた。 ヘクサゴン・スペルで、戦艦の錨と、それを繋げていた鎖が吹き飛ばされていく。 吸血竜はそれを器用にかわしながら、ヘクサゴン・スペルの届かない距離にまで飛んでいった。 ルイズが後ろを振り向くと、戦艦がいくつも落ちていくのが見えた。 コントロールを失い斜めになって落ちていくものもあるが、落下速度が遅い。 風石にまで影響を受けていなかったのか、それともメイジの乗組員が『レビテーション』や『フライ』を用いているのか……。 (……馬鹿馬鹿しい、戦場で、敵の命を心配してどうするのよ……) ルイズは、考えを振り払うように顔を上げた。すると上空に漂う雲の切れ目から、黒い影がこちらへ一直線に向かってくるのが見えた。 「デルフ!」 『あいよ!』 ルイズは慌てながら、その影にデルフリンガーを向けた。 次の瞬間、デルフリンガーに『エア・ハンマー』がぶち当たった。 「ワルドッ!」 上空から飛来した影は、風竜と、それに跨ったワルドだった。 羽を奪われ、体力を消耗し、飛行能力の衰えた吸血竜では風竜の機動力に敵わない。 ルイズはデルフリンガーを身構えつつ、腕の中にしまいこんだ杖に意識を向けた。 「石仮面! 貴様は、貴様はわたしの足かせだッ! 今、ここでッ、それを断ち切ってやる!」 ワルドが叫びつつ杖を振りかざす、ルイズは自身に降りかかる魔法の刃を警戒し、体勢を低くした。 『下だ!』 デルフリンガーが叫ぶと同時に、ルイズの足に吸血竜のたてがみが絡みつき、ルイズの体を固定した。 「!」 次の瞬間、翼を畳んだ吸血竜が、長い尾を鞭のように動かして大きく体をうねらせた。 突然のことに驚きながらも、デルフリンガーを離すまいと必死に耐えるルイズの眼前に、もう一人のワルドが姿を現した。 「やばっ」 遍在のワルドが放つエア・スピアーをデルフリンガーで逸らしつつ、自身の体勢を立て直す。 すかさずルイズはワルドの偏在に、デルフリンガーで斬りかかろうとした。 「ワルド!」 ガキン!と音が響く。 もう一人の遍在が『エア・ニードル』でデルフリンガーを受け止めたのだ。 「名乗っていなかったかな!私は『閃光』のワルド!貴様の再生能力と腕力は驚嘆に値するが、スピードでは私が上だ!」 ワルドの言ったことは事実だった、吸血竜が体の内に仕込んだ骨を飛ばしても、長い尾を鞭のように振り回しても、ワルドは風の障壁で防御しつつ風竜を操り回避していく。 そもそも、ニューカッスルの城で見たワルドの能力が全てだとは限らないのだ。 軍人として訓練されたスクエアを相手にするのが、どれほど困難なのか、ルイズは身をもって感じていた。 空中で戦いを繰り広げながら、ちらりとラ・ロシェールの方向を見る。 既にアンリエッタとウェールズが繰り出したヘクサゴン・スペルは消滅しているが、レキシントンは船体にダメージを受けて高度を著しく下げていた。 マンティコア隊、グリフォン隊、ドラゴン隊がレキシントンに取り付いているのが見える。 だが油断はできない、いくつかの戦艦はまだ戦闘を続行しようとして方向を転換している。 アルビオン軍の地上部隊もある程度は混乱していたが、本陣はまだラ・ロシェールへと攻め込むべく突撃体勢をとっているようだ。 アンリエッタは無事だろうか? ウェールズは無事だろうか? アニエスは無事だろうか? エア・カッターで脇腹を貫かれ、その傷口にウインド・ブレイクを放たれ、体が上下にちぎれそうになりながらも、考えは止まらない。 『気を散らしすぎだ!』 デルフリンガーがルイズを叱責する。 「…っ ……!!」 ルイズは返事もせず、ただひたすらワルドとその遍在の猛攻を防いでいた。 返事をしないわけではない、返事ができないほどに、ワルドが強いのだ。 「おおあああああッ!」 ワルドの遍在が雄叫びを上げながら飛来する、慌ててデルフリンガーでなぎ払おうとしたが、それをエア・ニードルで受け止められてしまった。 そして遍有は、ずぶり、と自身の体にデルフリンガーを突き刺しつつ、エア・ニードルを振りかざしてルイズに迫った。 エア・ニードルがルイズの左腕を払うと、螺旋状になった魔力の渦が、ルイズの左腕と仮面を巻き込んで破壊する。 遍在は次の瞬間にかき消えたが…ルイズの体には大きなダメージが残されていた。 腹部は大きく抉られ、内蔵はいくつか吹き飛ばされ、左腕はほとんど切断され垂れ下がっている。 血が足りない。 吸血鬼のボディが限界に近づいていた。 エア・ニードルで抉られた仮面がゆがみ、視界が塞がれる。 焼け付いて皮膚に癒着したを仮面を、ベリベリと音を立てて引きはがすと、かろうじて繋がった左腕でそれを投げた。 「フン!」 ワルドは軽く杖を振り、風を巻き起こして仮面をはねのけた。 ケロイド状になった顔が再生されていく、血を失い頬がこけてはいるが、その顔はワルドの記憶にある『ルイズ』の姿に酷似していた。 仮面の中に封じられていた髪の毛は、戦いの中で染料が落ち、元の桃色がかかったブロンドへと戻っていた。 「やはりか、石仮面よ! その顔だ、その顔が俺の決意を鈍らせる…!」 「………」 ワルドが、風竜の上でルイズを睨み付ける。 その視線を受けて、ルイズはある策を思いついた。 「私を見て、裏切りの決意が鈍るとでも言うの!」 「裏切りの決意か! 何とでも言うがいいさ!」 「私が婚約者に似ていると言ったわ!裏切るような人が、なぜあの時そんな話をしたのよ!」 「そうだ!貴様は似すぎている!」 風竜の上から、ワルドが絞るように叫んだ。 「私が母の教えに背いたとき母は死んだ! レコン・キスタの誘いを受けたときもルイズが死んだ! もはやトリステインに執着はないと思った時に貴様が現れたのだ! これが始祖ブリミルの導きならば、私が裏切ることを見越して残酷な運命を課したのか!?」 「ルイズの顔をして俺の前に立ちはだかる貴様こそが、立ち向かうべき運命の象徴だ!跡形もなく消し飛ばしてやるッ!」 杖の先端がルイズに向けられる。 ルイズはすかさず鉄製の肩当てを外して、ワルドに投げつけた。 風の障壁を作り、それを防ごうとしたワルドは、凄まじい勢いで投げられたはずの肩当てが、風の障壁に干渉せず通り抜けたのを見て驚いた。 「な!?」 その肩当ては、風竜の体を貫通して、ワルドの背後へと飛んでいく。 しかし不思議なことに、風竜の体には傷一つ付いていなかっった。 「幻か!?」 そして次の瞬間、ワルドの左胸に、どこからか投げられた金属片が衝突した。 「ぐぶっ」 ボキボキと嫌な音を立てて、ワルドの体がきしむ。 衝撃に耐えきれず、跨っていた風竜から体を滑らせて、ワルドの体は地面へと落下していった。 「GOAAAAAAAAAAA!!」 目の前に見えているはずの吸血竜とは、別の場所から聞こえてきた雄叫びに、風竜がたじろいだ。 次の瞬間、眼下に広がる森林と、空の景色が裂け、その隙間から現れた吸血竜が風竜の首に噛みつく。 ベキベキと不快な音を立てて風竜の首の骨が破壊され、突き立てられた牙から血が奪われる。 鳴き声一つあげることなく、からからに干からびた風竜が、ワルドの後を追うように地面へと落下していった。 「げ、ほっ」 『大丈夫かよ』 ルイズは吸血竜の上で膝をついた。 「あっ、足が…た、立てない。ず、頭痛が、する…吐き気も…」 悪寒に襲われて、ブルブルと体を振るわせるルイズに、吸血竜は風竜から吸い取った血を吹きかけた。 「あり、がと、う……うう、あ、オエエエエッ!」 喉の奥からこみ上げてる嘔吐感が、ルイズの全身を振るわせた。 胃の中に何か残っているわけでもない、それどころか、先ほど細切れに吹き飛ばされた内臓も再生しきってはいない。 全身を襲う不快感の理由は、先ほど使った『イリュージョン』と、肉体的な疲労の両方だろう。 さきほど肩当てと一緒に引きちぎったベルトが、胸の前でだらんと垂れる。 デルフリンガーは、胸当ての隙間からルイズの胸を見る、するとそこには、唇と同じような形の裂け目が作られていた。 『おでれーたよ、こんな詠唱見たことねえ。無理しすぎだ』 「あ、っ、あたしだって、できるとおもってなかったわよ」 ルイズは体組織の再生能力をコントロールして、胸に口をもう一つ作り出したのだ。 右腕に隠していた杖を、ワルドから見えないように掌に露出させて握りしめる。 そして相手にわざと顔を見せつつ、もう一つの口でイリュージョンを詠唱。 翼を何枚も取り込み、異形の竜となった吸血竜からヒントを得たのだが、ルイズにとっては一か八かの賭と同じだった。 魔法の使いすぎで気絶しそうになりながらも、ルイズはワルドを退けることに成功し、安堵のため息をもらした。 『おい、ありゃなんだ?』 どうやって戦線に戻ろうかと考えていると、デルフリンガーが何かに気が付き、声を上げた。 「…?」 ルイズが顔を上げると、輸送船と思わしき一隻の船が、ラ・ロシェールに向かっているのが見えた。 既にレキシントンをはじめとするアルビオンの戦列間は戦闘行動を止め、ラ・ロシェール付近の地面に落ちていたが、その船だけは何かが違った。 何かが引っかかる。何かが。何かが… 『上層部からの命令で腑に落ちないことはなかった?』 『あった』 『それを答えなさい』 『しょ、食料を積み込まなかったのが、2隻ある、食料の代わりに火薬と脱出廷を多く積んだ』 「まずい!」 デルフリンガーと、吸血竜の鬣を強く握りなおして、ルイズが叫んだ。 『どうしたよ!』 「食料を積み込まなかった船は二隻よ!そのうち一つは自作自演で使われた!」 『じゃあ残る一隻は』 「あの輸送船よ!」 吸血竜が必死に羽ばたくが、すでに輸送船は落下を開始していた。 仮に火の秘薬が積み込まれているとしたら、ラ・ロシェールに衝突した場合ただでは済まない。 トリステイン軍は、ラ・ロシェールを本陣として布陣しているはずだ、そこに火の秘薬を満載した船が落ちたら…… 「間に合わない」 ワルドとの戦いで傷つい吸血竜は、思うように速度を出せず、苦しそうに飛んでいた。 このままでは間に合わない。 ここまで来たのに、こんな土壇場でアンリエッタとウェールズを失うわけにはいかない。 失うわけには、いかないのだ。 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」 杖を掲げ、ルイズが詠唱する。 何よりもルイズの体に合うリズム、懐かしさを感じるリズム。 ルイズの神経はとぎすまされ、風の音も、何の雑音も聞こえなくなっていった。 『おい!? おめえの体は……』 だから、デルフリンガーの声も聞こえない。 「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」 体の中に生まれてくる力の波は、イリュージョンや忘却の比ではなかった。 「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ」 渦巻く、体の中で波が渦になり、凝縮され、今にも暴れそうになる。。 力が行き先を求め、今にも暴発しそうな勢いで体の中を荒れ狂う。 『ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……』 ラ・ロシェールへ落ちていく輸送船めがけ、ルイズは杖を振り下ろした。 アンリエッタは、ウェールズは、マザリーニは、信じられない光景を目の当たりにしていた。 勝ち戦の雰囲気になり、トリステイン軍の将兵達はうかれていた。 だが、そこに輸送船が落ちようとしているのを見つけ、トリステイン軍は一時混乱状態に陥りそうになった。 遠距離ゆえに、またその重量ゆえに、そしてほとんどのメイジが精神力を消費し尽くしていたがために、船を弾くことができなかったのだ。 ウェールズはルイズからの報告を思い出し、戦慄した。 二隻の船に積み込まれた火の秘薬、つまりは、自爆を前提にしている船が二隻あったはずなのだ。 そのうち一隻はトリステイン侵攻の名目を作るために自沈、もう一隻がまさかこんな時に出てくるとは思っていなかった。 完全に、油断していた。 だが、絶望に包まれかけたトリステイン軍の上空に、津波のような光の奔流が現れ、すべてを包み込んでいった。 光が収まった頃、辺りは恐ろしいほどの静寂に包まれていた。 アンリエッタも、ウェールズも、将兵達もみな呆然と空を見上げていた。 ラ・ロシェールめがけて落ちようとしていた船が、跡形もなくどこかへと消え去っていたのだから。 そしてしばらくして、気を取り直した誰かが「トリステイン軍万歳」と叫びはじめた。 全軍から見れば一滴の水滴でしかなかったその声は、波紋となって広がり、敵味方を全て包み込む。 後にタルブ戦と呼ばれるこの戦闘は、トリステインの圧倒的な勝利で幕を閉じた。 一方、その頃… 「ゴボ グボオオオオオッ」 ジュウジュウと音がする。 硫酸でも浴びたかのように体が溶け、骨を露出させた馬が、よろよろと森の中を歩いていた。 「ブルル…ア………ァ」 声にならぬ声を上げ、どたん、と音を立てて地面へと横たわる。 不自然に膨らんだ腹が破け、中から一人の少女が姿を現した。 艶やかなピンク色の髪の毛が、濡れた肌に張り付き、妖しくも美しい姿だった。 「…………」 体の大半が溶けた馬は、残った片目で少女の姿を確認すると、そっと目を閉じた。 溶けた体がシュウシュウと音を立てて気化し、骨が風化していく。 それを見ている一人の男がいた。 グレーの髪の毛と髭をたくわえた精悍な男だが、両足は着地のショックで砕かれ、左腕に着けていた義手も砕けていた。 這い蹲って少女に近づき、近くに転がっている石を掴む。 少女の頭ほどもある石を振り上げて、今まさに振り降ろさんとしたとき、少女の目が開かれた。 少女は夢を見ていた。 子供の頃、屋敷の庭に作られた小さな池に船を浮かべて、一人でそこに隠れていた。 いつの間にか小舟には、憧れの子爵様がいて、少女の隣に座っていた。 母に怒られるたびに、父に怒られるたびに、姉に怒られるたびに、家庭教師に怒られるたびに、少女は憧れの子爵様に助けられていた。 「……さま」 少女の呟きが、石を振り下ろそうとしていた手を止めた。 男は、見当違いの場所に石を投げると、少女の顔をのぞき込んだ。 「わるどさま」 少女の手が、ワルドと呼ばれた男の頬に触れる。 男は、声を上げて泣き崩れた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/pmvision/pages/148.html
《ルイズ》 No.1493 Character <第十六弾> GRAZE(2)/NODE(3)/COST(1) 種族:魔界人 (自動γ): 〔あなたの場の「種族:魔界人」を持つキャラクター〕が相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える場合、〔相手プレイヤー〕が受けるダメージは+2される。 攻撃力(3)/耐久力(3) 「あらめずらしいわ 人間の人かしら?」 Illustration:せとらん コメント 魔界における村人A。 今回は種族:魔界人のサポートに終始している。 種族:魔界人が相手プレイヤーへ与えるダメージを増加してくれるが、キャラクターへのダメージは据え置き。 ユキ/13弾らのサポートをするインスタント雛人形の影響を受けないなどの細かい点を除き、基本的に攻撃力への戦闘修正の下位互換でしかない。 お誂え向きに種族:魔界人の全体強化には耐久力も上げてくれる神綺/7弾がいるので、このカードの立場は厳しいと言わざるを得ない。 神綺/7弾に比べて圧倒的に軽いという利点はあるが、魔界によりキャラクターの重さを誤魔化せるのが種族:魔界人の本領であり、また、種族:魔界人自体がそれほど序盤から攻めたいデッキでもないので、このメリットも些細なものでしかない。 どうしてもこのカードを採用するなら、神綺/7弾を積みにくい神綺/16弾と魔界蝶でビートダウンしていくタイプの魔界デッキとなるだろう。 神綺/16弾の横に1体据えるだけで魔界蝶が実質4/1グレイズ0のキャラクターとなり、クロックの加速を大いに補助してくれる。 また、神綺/16弾自身も11点をわずかグレイズ3で叩き出すキャラクターとなる。 神綺/16弾自体の戦闘力が異常に高いので、対キャラクターを気にしなくてよくなるのはこのカードと噛み合っている。 ただし、盤面に維持したいシステムキャラクターの割にやや脆いのには要注意。 リリカ・プリズムリバー/11弾であっさり沈んでしまうので、過信は禁物である。 収録 第十六弾 Liberal Emotion 関連 「ルイズ」 ルイズ/7弾 ルイズ/13弾 ルイズ/16弾
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/5595.html
autolink() ZM/WE13-04 カード名:揺るぎない信頼 ルイズ カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:5000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【永】応援 このカードの前のあなたのキャラすべてに、パワーを+X。Xはそのキャラのレベル×500に等しい。 【自】[①]あなたのクライマックス置場に「サモン・サーヴァント」が置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の山札を見てレベル1以上の、《使い魔》?か《虚無》?のキャラを1枚まで選んで相手に見せ、手札に加える。その山札をシャッフルする。 ノーマル:わたし、信じてるもん。 サイトは絶対絶対、来るんだから! パラレル:ずっと、私のそばにいないと許さないんだから レアリティ:R illust.- 初出:電撃G'sマガジン 2008年6月号 12/04/18 今日のカード。 CXシナジーを搭載したレベル応援。 シナジーの内容は1コストでの山札サーチ。 ネオスタンであれば《使い魔》?・《虚無》?共に対象も少なくない。 ゼロの使い魔には各色に大活躍?を持ったキャラが用意されているので、それらのサポートをしてやるのも良いだろう。 貴族の務め ルイズの経験を満たすために必要な1枚でもある。 そちらも《虚無》?を持つため、勿論CXシナジーでサーチが可能。 パラレル版はイラスト・フレーバー共に別。 ・対応クライマックス カード名 トリガー サモン・サーヴァント 1・炎 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 貴族の務め ルイズ 3/2 10000/2/1 黄
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8071.html
前ページ次ページ天才と虚無 鉄格子の合間から乾いた風と細かい砂塵が舞い込む。 石壁に三方を囲まれた部屋。 廊下に面した壁の代わりに、一面の鉄格子が嵌っていた。 そこは、牢獄だった。 青年は粗末な寝台の上に腰掛け、牢獄の壁に背中を預けていた。 青年が牢獄に閉じ込められて、いったいどれほどの時間が経過しただろうか。 窓から差し込む朝日と夜の訪れから日数を数えていたのだが、途中でやめてしまっていた。 それから既に幾度もの朝と夜が過ぎ去っていった。 青年が粗末な寝台の固さに身をよじると、青年の視界を何かが掠めた。 目を向けると、牢獄の壁に寄りかかるような形で、姿見程度の大きさの鏡があった。 それを見た青年は、頭の中に疑問符を浮かべる。五秒前まで、そんな鏡はそこには無かった。 何らかの咒式だろうか、と青年は思考する。 電磁光学系第二階位<光幻軆>の咒式による立体映像化と思い、即座にそれを否定する。 鏡には影があった。立体映像ならば影は出来ない。 青年はその鏡に、無性に触れてみたくなる。 生来の好奇心と牢獄に閉じ込められてからの退屈に突き動かされるようにして、青年はその鏡へと手を伸ばした。 白く長い繊細な指が、微かに発光している鏡の表面に触れる。 青年は鏡ごと、この世界という枠の内側から消滅した。 亜麻色の髪と深緑の瞳を持つ少女が青年に食事を届けに来て、青年の姿が無くなっていることに悲鳴を上げたのは、青年が消えてから正確に十秒後だった。 ○ ○ ○ 轟音! 少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの振り下ろした杖の先の空間が爆発! 白光の後に爆音が轟き、衝撃波が地面を抉る。 抉られた地面が土煙となって周囲へと降り注いだ。 「いい加減にしろ、ゼロのルイズ!」 その爆発を遠巻きに見ていた一人の少年が、爆発を引き起こした少女へと怒鳴る。 「使い魔の召喚にいつまでかかってるんだよ!」 「他はみんな終わってるんだ、お前もさっさと終わらせろよ!」 最初の声を皮切りに、その周囲にいた生徒たちも、ルイズへと罵声を投げかける。 トリステイン王国、王立トリステイン魔法学院では、二年生への進級試験を兼ねた、使い魔召喚の儀式の最中だった。 「……………くっ」 ルイズは投げかけられる嘲笑と罵倒に、葉を食いしばって耐える。 自分が使い魔を召喚しようとして失敗をしたのは、今ので五回目。 失敗するたびに大爆発を引き起こす少女の魔法。 その直撃を受けた平原は見るも無残に抉られて、ところどころ草の合間から地肌が見えていた。 「ミス・ヴァリエール…………残念だが、時間も迫っている。残りは放課後にしないか?」 「っ!?」 ローブを羽織った禿頭の教師――――コルベールが、召喚に失敗した少女へ、声をかける。 ルイズが最後とはいえ、五回もの失敗。 予定していた時間は既に過ぎ去り、次の授業の刻限も迫りつつあった。 「放課後ならば、私も時間が取れます。その時は召喚できるまで――――」 「待って、待ってください!」 コルベールの言葉を遮るようにして、ルイズが叫んだ。 「ミスタ・コルベール! お願いです、もう一度だけ! もう一度だけ召喚させてください!」 「しかし、時間が………」 「お願いします、もう一度だけでいいんです!」 ルイズの懇願に、コルベールは思案する。 一人の生徒に、これ以上に時間をかけることは出来ない。しかし、一人だけ召喚をすませずに、というのはあまりに不憫だ。 「…………しかたありません、ミス・ヴァリエール。もう一度だけ召喚を許可します」 数秒の沈黙の後に出された結論は、微量にだけ情が多く含まれていた。 「ありがとうございます!」 その答えに、ルイズの表情が一気に明るいものになる。 「ただし、これで最後ですよ? これで失敗してしまったら、次は放課後です」 「は、はい! 解りました」 真面目な口調で発せられたコルベールの言葉に、明るくなったルイズの表情が引き締まる。 そのまま五つの穴が開けられた草原へ向きなおり、深呼吸を繰り返す。 唱えるべき呪文を脳内で何度も復唱し間違いが無いことを確認。 すう、と息を吸い込み、呪文を唱え始める。 「宇宙の果ての何処かにいる私の下僕よ!」 ルイズの紡ぐ言葉が、ルイズ自身の深層意識より、魔力と名をつけられた、認識力を引きだし始める。 「神聖で美しく、強力な使い魔よ!」 荒れ狂うそれは、ルイズの吐き出す言葉によって徐々に統制・制御され、魔法としての形を成していく。 「我は心より求め、訴える!」 ルイズの魔力は物理法則を歪め、計算するのも億劫なほどのエネルギーを作り出し、集約する。 空間に微細な虫食い穴が発現し、負の質量を持つ物質がそれを支える。 その穴が繋がる先は、運命にゆだねられる。確率とも何某かの意思ともつかぬそれが、座標を決定する。 そして―――― 「我が導きに、答えなさいっ!!」 っどごぉおおぉおん!!! ――――大爆発を引き起こした。 「う、そ…………」 自分の引き起こした特大の爆発を見て、ルイズの膝が折れた。 絶望に目眩がし、立っていることすら出来なくなる。 心が折れるというのはこういう気分なのだろうと、ルイズは頭の片隅で考える。 ぱらぱらと、舞い上がった砂や石が、ルイズへ降り注いだ。 「うぅ…………」 「!?」 それは、呻き声。 土煙に遮られて見えない爆心地より感じた、生き物の気配。 成功した、成功した! 成功した!!! 絶望は希望へ、失意は歓喜へ塗りかえられる。 しかし、一陣の風が土煙を吹き飛ばした時、その感情は再び絶望へ、失意へと叩き落とされた。 「あんた、だれ…………?」 そこにいたのは、人間。 美しい金髪をした青年が、抉られた地面に尻餅をついて座っていた。 「えっと、あ、あれ?」 きょとん、としか表現のしようのない表情で、青年が周囲を見渡す。 数回、往復した視線はやがてルイズのそれと交錯する。 青年の瞳は、まるで翡翠のような緑だった。 ゼロと呼ばれた少女と、天才と呼ばれた青年が出会った瞬間であった。 前ページ次ページ天才と虚無
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2964.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ ある夜、トリステイン王国とその近郊で4つの事件が起きた。 平民から搾取をするメイジ、あるいはドラゴンなどの幻獣が突如気を失ったという事件である。 だが、この4つの事件を結びつける者は誰もいなかった。 それも当然で4つの事件が起こった場所はあまりにも離れていたし被害者にも共通点がなく、その上誰にも知られることなく終わったものもあったからである。 これは、その4つの事件の中の1つのあらましである。 深夜のヴァリエール公爵の屋敷。 そこに屋敷の庭に作られた花の迷路を駆ける土くれのフーケの姿があった。 なぜ彼女がヴァリエール領にいるか。 それは盗賊としての仕事のためである。 トリステイン魔法学院での盗みに訳もわからぬうちに失敗したフーケは学院に帰るに帰れなくなり、かねてから次の目標と定めていたヴァリエール公爵所有の宝物を頂戴すべくこの地を訪れた。 では、なぜ今その土くれのフーケがヴァリエール公爵の屋敷に作られた花の迷路を髪を振り乱し、服を汗で体に貼り付けながら息を切らせて走っているのか。 それは彼女が盗みに失敗したからである。 学院の時とは違い夜陰に乗じて邸宅に侵入した──ケチがついた学院の時と同じ方法を使う気にはなれなかった──フーケはあらかじめ調査しておいた通りに宝物のある部屋に足音を忍ばせて急いだ。 目当ての部屋まであと少し。 そこで少女が一人、フーケの前に立ちはだかった。 「お前、泥棒か?」 赤毛の、まだ子供と言っていい歳のメイドの少女が気の強そうなつり目を向け、フーケの前に立っていた。 立っていた、と言う言い方は正確ではないかもしれない。 立ちはだかっていた、と言う言い方が適切だろう。 「おとなしく捕まるんなら何もしねえよ。そうでないんなら、ちょっと痛い目にあってもらわねえとな」 「はっ」 フーケは鼻で笑う。 たかが子供に、たかがメイドになにができるのか。 「それは私の台詞だよ。お嬢ちゃん。平民がメイジに何ができるって言うんだい?」 そう、少女は杖を持っていない。マントも着ていない。 フーケのような貴族崩れですらない。たかが平民なのだ。 たった一人の平民の子供がメイジのフーケに何ができるわけがない。 「おとなしくしてるなら何もしないであげるよ。でも、そうでないんなら痛い目にあってもらわないとねえ」 フーケは少女の言葉を真似て嘲り、そして杖を構える。 少女との距離は離れている。 人間の脚力ではどうやっても一気に飛び込める物ではない。 つまり剣や素手の間合いではないのだ。 それなら魔法で少女をどうとでもできる。殺すも生かすも思いのままだ。 故に、これで大抵の平民は黙ってしまう。 「なら、しかたねえな」 だが少女は怯みもしなければ怯えもしなかった。 つり目を離さずに、やや半身に構える。 「少し痛い目にあってもらうぜ!」 地面を蹴る少女は低くフーケに跳ぶ。 「は、バカだねえ」 フーケは落ち着いて杖を振り、ルーンを唱える。少女は確かに速いが、杖の一振りで魔法を使えるメイジ相手には不十分だ。 木の床は練金で瞬時に泥沼に変わり、天井は土となる。 ──終わりだよ 素手の少女がフーケに手を出すには、泥となった床を踏まなければならない。 そして泥を踏めば足を取られ、土となった天井が少女を生き埋めにする。 勢いのついた少女は今更止まれないはずだ。 フーケは三日月のように唇をゆがめ、嘲笑を少女にくれてやる。 「たあああああああああああああああああああっ」 泥に埋まる少女が叫び声をあげる。 それは、やむことなくフーケに迫り、彼女の嘲笑をわずかなものとした後に驚愕へと変えた。 少女は床に足をつきはしなかったのだ。 「なっ」 空を飛び、いつの間にか握っていた槌のような杖でフーケに横一閃。 間一髪、床に転げたフーケの頭上を槌が通過する。 少女の細い腕でふるわれたとは思えない威力を持つ槌が屋敷の壁を粉々に粉砕した。 「冗談じゃないよこんなの!」 フーケはその穴から転がり出る。 壁が砕け散ったときに出た音が屋敷の隅々まで響いている。 この盗みは失敗だ。 フーケは、あらかじめ予定していた経路に向かい走った。 そして今、フーケは屋敷の庭に作られた花の迷路を走っていた。 庭木で作られた迷路の壁は高く、また密集しているためフーケを見つけるのは非常に困難になっている。 しかもフーケは脱出のための経路をあらかじめ調べている上にいざとなったら土の魔法で庭木の壁に穴を開け、またふさぐこともできるのだ。 だれも追いつけるはずがない。ここまで来ればもう脱出したも同然だった。 「まちやがれ!」 はっきりと声が聞こえた。 ──見つかった? 振り返っても誰もいない。 声の大きさから考えて遠くにいるわけではない。ならどこに? 声が聞こえた方向をもう一度思い出す。 声は…… ──上? 追っ手は上にいた。 先ほどの壁を粉砕したメイドの少女が槌のような杖を持ち、そしてなぜか赤い服──それはどこか戦装束を思い起こさせた。両脇に不気味な怪物の顔がつけられた帽子など、他の何に使うというのか──を着て空を飛び、フーケめがけて急降下してくる。 「さっきは驚いたけど馬鹿なことをしてるもんだよ」 フーケはルーンを唱え、魔力を通した足で地面を蹴る。 学院の時と同じだ。地面はあっという間に盛り上がり、巨大な人型を作った。 「ここまでフライを使って精神力を使い果たして何しようってんだよ」 土のかたまりはゴーレムとなり赤い少女を握りつぶさんと手を伸ばす。 赤い少女は止まらない。さらに速度を上げ、そして一言叫んだ。 「アイゼン!」 火薬の爆ぜる音、そして金属がぶつかり合う音がした。 少女は槌を振り上げ、ゴーレムに振り下ろす。 人間が振り回せるような槌で30メイルものゴーレムがどうにかなる物ではない。 だが少女の槌はゴーレムの腕を粉砕し、二撃目でゴーレムの全てを吹き飛ばした。 その後ろにいたフーケもろとも。 「きゃああああああああああああああ」 吹き飛ばされたフーケは迷路の壁を作る庭木に抱き留められた。 枝が頬や腕にひっかき傷を作ったが、それは優しい方だったかもしれない。 少なくとも目の前にいる赤い少女よりは。 「カトレアに知れたら事だからな。人間相手にはあんまりつかわねえんだが泥棒なら別だ」 少女は手を掲げる。 睨むフーケの目の前で不思議なことが起こった。 フーケの胸元から光る玉が浮かび上がっていくのだ。 何が起こっているのかはわからない。だが、その原因が赤い少女にあることは確実だ。 「な……何をする気……」 「蒐集」 フーケの腕から力が抜ける。 視界は闇に閉ざされ、意識は沈んでいった。 ルイズが勲章を賜ってから数日後のことである。 その日はルイズにとっては久しぶりの授業だった。 あの後ルイズは、水のメイジの秘薬を使っても回復がかんばしくなく、寝込んでいた。 ルイズはその間、ずっとおかんむりだった。 特にフリッグの舞踏会当日は 「私も出るー」 と、ふらつく体を引きずって無理矢理起き出してユーノを困らせたほどだった。 これはこの数日でユーノが2番目に困ったことだった。 ちなみに1番困ったのはルイズの毎日の着替えである。 体が疲弊して、ろくに体が動かないルイズの着替えをユーノが手伝ったわけで……。 いやまあ、ほとんどはシエスタが手伝ってはいたんだけど。 何はともあれ久しぶりの教室は前に比べて少し騒がしく、女生徒たちが固まってお喋りをしている。 ルイズは、その集団をちょっと見ただけで席に着いたのだが、向こうからルイズに近寄ってきた。 「ねえねえ。ルイズ、ちょっと教えて欲しいんだけど」 どうやら、この集団のリーダーはモンモランシーらしい。 「何を?」 「そりゃあ、今評判の女騎士様の事よ」 「女騎士?なんでそんなの私に聞くのよ」 「ああ、そうか。ルイズはずっと寝てたから知らないのよね。わかったわ。教えてあげる」 そしてモンモランシーは蕩々と語り始めた。 「ちょっと前にね。土くれのフーケが捕まったのよ。どこで捕まったと思う?なんと、ヴァリエール領。そう、あなたの故郷のヴァリエール領よ。土くれのフーケはあなたのとこのお屋敷に泥棒に入ったんだけど、見つかって逃げたんですって。それを追跡して、死闘の果てに捕まえたのがヴァリエール公爵の次女、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ様とその騎士団ってわけよ」 「……はぁ?」 モンモランシーの説明には最後の部分にとても聞き捨てならないところがあった。 「ちょっと待って。誰と誰の騎士団?」 「だから、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ様とその騎士団よ。黄金の杖を持って、白銀の鎧に身を包み、桃色がかったブロンドをなびかせ白馬に乗った女騎士。カトレア様。あぁ、きっと、とても素敵な方なんでしょうね」 「え?あ?その……どこのカトレアでどこのヴァリエール領よ」 「あなたのところに決まってるじゃない。だから、あなたに聞きに来たのよ。カトレア様がどんな方か」 「いやいやいやいや。それ、絶対ないから」 いや、もうあるわけがない。 ルイズはまず自分の姉であるところのカトレアが白銀の鎧を着たところを想像する。 間違いなくつぶれる。 次にカトレアが黄金の杖を持って土くれのフーケと闘うところを想像する。 間違いなく倒れる。 ここでちょっと考え方を変える。 土くれのフーケが得意な魔法はゴーレムだ。 カトレアも優秀な土の系統のメイジで、ゴーレムを作る魔法もかなり上手い。 なら、これでゴーレム大決戦をやったら……どう考えても似合わない。 このことからルイズは一つ結論を出した。 ──何が起こったかはわからないけど尾ひれがつきまくってるみたいね。 「絵姿も出ているのよ。見る?」 「見せて」 モンモランシーが丁寧に折りたたまれた絵姿を取り出す。 それを見たとき、ルイズの目は点になった。 「これ、姉様じゃないわよ」 「は?」 「じゃあ、誰のよ!」 「知らないわよ。でも、とにかく、これは姉様じゃないわ。だまされたんじゃないの?」 「きーーーーーーーっ」 激しく悔しがるモンモランシーとこの前できたばかりのカトレアファンクラブ一同。 だが、実のところルイズは嘘をついていた。 その絵姿には見覚えがあった。 おそらく何十年も前に書かれた物を模写して、少しだけ加筆修正した物だろう。 絵姿の人物がヴァリエール領にいるのは間違いない。 そして、その人物ならばフーケを地の果てまで追いかけて捕まえるくらいできるであろう事もわかっていた。 その人物は烈風の2つ名を持つあの人なのだから。 その人が捕まえたのならば、カトレア姉様が捕まえたというのよりはずっと信憑性がある。 だが……しかし…… ──あの人と死闘を演じるなんて……フーケって、どういうメイジなのよ。 話半分に聞いても無茶を通り越して、フーケの事がとても心配になる。 ルイズは悲鳴を上げるファンクラブを尻目に、しばらく頭を抱えていた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ